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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第二章:市場独占と組織のデバッグ

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第064話:メイン・ベンダーの『暴走狂詩曲(ラプソディ)』と、社内カーストの崩壊

 


 1.過熱する社内プレゼン(アピール合戦)


 親会社『アーク・フュージョン』での次期事業計画(グローバル市場への宣戦布告)の打ち合わせを終え、佐藤通トールは渋谷『レギュレーター・タワー』のペントハウスへと帰還した。

 空間転移ワープの魔力残滓が消えるより早く、エレベーターホールから続く真新しい大理石の廊下には、すでに濃厚な香水の匂いと、目に見えないバチバチとした「魔力の火花」が散っていた。


「お帰りなさいませ、ボス。……親会社との会談、つつがなく終了クローズしたようですね」


 出迎えたのは、完璧なタイトスカートのスーツを着こなした広報兵站部長・三木怜だった。彼女は『共同経営者』としての矜持を胸に、胸元の谷間を強調するようにタブレットを抱え、トールに色っぽく微笑みかける。


「あら、ご苦労様、トール。……ギルドの残党の不満ノイズは、私が外部顧問として完全に法的に圧殺デリートしておいたわ。……私への『特別ボーナス』、期待してもいいのかしら?」


 反対側から歩み寄ってきたのは、氷室冴香だ。制服のブラウスのボタンを大胆に開け、大人の色香で三木を牽制する。


「……ボスの不在を狙う野良犬は、私がすべて影で処理しました。……ボスのために、もっと……私のこと、使ってください……」


 影から音もなく姿を現した影森蛍が、頬を真っ赤に染めながらトールの袖をきゅっと掴む。


「ちょっと、抜け駆けは許さないわよ。ねえボス、次は海外のマーケットなんでしょ? 私の大鎌で、外資の連中を極彩色に切り刻んであげるわ。……だから、今夜は私の部屋で『綿密なミーティング』をしましょ?」


 プラチナブロンドの髪を靡かせ、COO代理の神代煌が、豊満な肢体をトールの背中に押し当ててきた。


 四人の有能な女性陣(バックオフィス&役員陣)。

 国内の不良債権をすべてデバッグし終えた今、彼女たちの次なる最大の目標は、「最強のCEOの『隣の席』を誰が独占モノポライズするか」という苛烈な社内政治(修羅場)へと移行していた。


「……やれやれ。国内市場を平定したと思ったら、自社内のガバナンス(派閥争い)の方がよっぽど騒がしいな」


 三十二歳の元管理職は、重い溜息を吐きながらも、有能なアセット(人材)たちのモチベーション管理だと割り切り、適当に相槌を打ってペントハウスのリビングへと歩を進めた。



 2.無自覚なマウント(物理資本力の提示)


「あ、トールくん! お帰りなさい!」


 リビングの奥、最新鋭のシステムキッチンから、ふわりとした桃色のエプロンを纏った神崎有栖が飛び出してきた。

 彼女の手には、湯気を立てるアンティーク調のティーポットと、焼き立てのスコーンが乗った銀のトレイが握られている。


「皆さんもちょうど揃ってますね! 今、特製のお茶を淹れたところなんです。会議の疲れを取るために、ちょっと特別なお茶っ葉を使ってみました!」


 有栖が満面の笑みでティーテーブルにポットを置く。

 その瞬間、三木、氷室、蛍、煌の四人の顔色が、一斉に青ざめた。


(……ちょ、ちょっと待って。あのポット……赤熱しているわよ!?)

 三木怜の眼が、驚愕に見開かれる。

 有栖が素手で握っているのは、取っ手まで金属でできたポットだ。しかも中身の温度が高すぎるせいで、ポット全体が微かに赤く発光している。推定温度、数百度は下らない。

 それを、有栖は鍋掴みすら使わず、全く熱がる素振りも見せずに「よいしょっと」とテーブルに置いたのだ。


(皮膚の表面に常時展開されている、高密度の絶対防衛膜バリア……。トールの極高密度マナを日常的に浴び続けた結果、あの娘の基本スペック、特Aランクの重戦士タンクを超えているじゃない……!)

 氷室冴香が、冷や汗を流しながら戦慄する。


「あ、それと、このスコーンに入ってるナッツなんですけど……」

 有栖は、ニコニコと笑いながら、ボウルのような器に入った「お茶請け」を差し出した。

「市場で『すごく歯ごたえがあるから試してみて』ってもらったんですけど、包丁でも全然切れなくて。仕方ないから、指でパキパキって割ったんです。形が不揃いでごめんなさい!」


(……解析。対象のお茶請け:特A級魔物『金剛陸亀アダマンタイト・タートル』の甲羅核。……硬度:ダイヤモンドの約30倍)

 トールの左目のモノクルが、無慈悲なログを叩き出す。


 ヒロイン四人は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 ダイヤの30倍硬い特A級素材を、「包丁で切れないから指で割った」だと?


(……これは、私たちに対する強烈な『牽制マウント』ね……!)

 三木怜の脳内で、勝手な被害妄想(確証バイアス)が爆発した。

(『私が愛するトールくんの胃袋インフラを脅かす泥棒猫ども。……あなたたちの頭蓋骨も、このナッツみたいに指先でパキパキに粉砕してあげるわよ』……っていう、正妻からの恐怖のプレゼンテーション……!?)


 煌も蛍も、有栖の無自覚な笑顔の裏に、底知れない「暴力のオーラ」を感じ取り、一歩後ずさった。

 彼女は自分がただの女子高生だと思っているが、その肉体はすでに、国家予算を投じても傷一つつけられない『歩く戦略兵器』へとバグり切っていたのだ。



 3.招かれざる客と、無慈悲なハエ叩き


 その時だった。

 ペントハウスの窓ガラスが、音もなく円形に溶け落ち、空間がグニャリと歪んだ。


「――Target lock.(標的確認)」


 流暢な英語と共に、黒い光学迷彩スーツに身を包んだ三人の巨漢が、音もなくリビングへと着地した。

 彼らの手には、魔力を帯びた超高周波ブレードが握られている。


「外資(ウォール街)が雇った、特A級の暗殺者フィクサーか」

 トールが、コーヒーカップを片手に冷徹に呟く。

 日本のダンジョンインフラのOSがレギュレーター規格に書き換わったことに焦った海外の巨大ファンドが、物理的な「敵対的買収(暗殺)」を仕掛けてきたのだ。


「……ボス! お下がりください! ここは私たちが!」

 三木、氷室、蛍、煌の四人が、ここぞとばかりに「トールを守る有能な役員」としてポイントを稼ぐため、一斉に武器を構えようとした。


 だが、それより一瞬早く。


「……Target, erase.(標的、排除する)」

 暗殺者の一人が、最も無防備で弱そうに見えたエプロン姿の有栖へと、高周波ブレードを振り下ろした。


「あ、危ない、有栖さん!」

 三木が悲鳴を上げた、その刹那。


「……きゃっ! な、なんですか!?」


 有栖は、驚いて振り返った。

 彼女の思考は「暗殺者に殺される」ではなく、「変な人が土足で入ってきて、せっかくのスコーンにホコリがかかっちゃう!」という、主婦としての真っ当な怒りで満たされた。


 有栖は、手に持っていた『銀のお盆』を、まるで顔の周りを飛ぶハエを追い払うような手つきで、無造作に『ペチッ』と振った。


 ――ドゴォォォォォォォォォォンッッッ!!!


 爆発音。いや、空間そのものが圧縮され、弾け飛ぶような凄まじい衝撃波。

 有栖の「ただのお盆の裏拳」が直撃した暗殺者は、防弾ガラス仕様の壁を跡形もなく突き破り、そのまま渋谷の夜空の彼方へ、文字通り「キラッ」と光る星となって吹き飛んでいった。


「「「…………え?」」」

 残された二人の暗殺者が、状況を理解できずにフリーズする。


「ああっ、もう! ガラスが割れちゃったじゃないですか! トールくんのタワーなのに!」

 有栖はプンプンと怒りながら、今度は「掃除の邪魔」とばかりに、残った二人の暗殺者の胸ぐらを両手でひょいと掴んだ。


「お、おい、離せっ! この小娘、力が……ッ!?」

「燃えないゴミは、外ですっ!!」


 ポイッ。

 有栖が窓の外へ向かって軽く投げ捨てる。

「Ghaaaaaa!!!?」

 二人の暗殺者もまた、弾丸のような速度で夜の闇へと吸い込まれ、二つの星となって消えていった。


「……まったく。最近は変なバグが多くて困りますね」

 有栖はパンパンと手を払うと、何事もなかったかのように満面の笑みで振り返った。

「トールくん! お茶が冷めちゃう前に、どうぞ!」



 4.社内カーストの崩壊と、究極の平穏


 リビングには、窓から吹き込む夜風の音と、役員陣ヒロインたちの絶望的な沈黙だけが響いていた。


(……勝てない)

 三木怜は、手にしたタブレットをそっと下ろした。

(法務だの広報だの、そんな小賢しい戦略ロジックが、あの子の『布巾のフルスイング』の前に何の意味があるというの……。圧倒的な物理資本力。メイン・ベンダーこそが、最強の要塞……)


(私の大鎌の全力フルバーストより、あの子の『お盆の裏拳』の方が重いって言うの……!?)

 神代煌は、自らの武器が爪楊枝のように思えてきて、静かに戦意を喪失した。


(……ボスの正妻トップ。……絶対に、逆らってはいけない……)

 蛍と氷室冴香もまた、深く、深く魂に刻み込んだ。

 自分たちがどれだけ「社内政治」で争おうと、この絶対的な無自覚バグの前では、すべてが赤子のお遊戯に過ぎないのだと。


 ガラガラと音を立てて、レギュレーター内のカースト図が「神崎有栖を頂点とする完全なピラミッド」へと再編デフラグメンテーションされた瞬間だった。


「……相変わらず、我が家のメイン・ベンダーは優秀なセキュリティソフトだな。助かるよ、有栖」

 トールは、割れた窓ガラスなど気にする素振りも見せず、優雅にティーカップを口に運んだ。


「えへへ、トールくんに褒められちゃった! 遠慮しないで、ナッツもたくさん食べてくださいね!」

 有栖が嬉しそうに、ダイヤの30倍の硬度を誇る甲羅核をバリボリと咀嚼する。


「……あ、あの、有栖さん。……お茶、私にも一杯、いただけますか……?」

 三木怜が、まるで新入社員のように畏まった態度で、両手を揃えて有栖に頼み込む。

「もちろんですよ! 皆さんで一緒に食べましょう!」


 最強の帰還者と、世界最強の防衛力を持つ無自覚な正妻。そして、完全に白旗を揚げて大人しくスコーンをかじる有能な役員たち。


 グローバル市場からの刺客の襲来は、こうして「お茶会のちょっとしたノイズ」として、シュールなまでに平和裏に処理された。



収拾がつかなくなりました。一旦お休みさせていただきます。

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