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渋谷ダンジョン事変。レベル130で帰還した元中間管理職、無能なギルドを『デバッグ』して現代社会を経営する 〜女子高生の弁当は経費で落とし、不良はOJTで精鋭騎士団へ〜  作者: トール
第一章:統制者の創業と、渋谷ダンジョンのデフラグメンテーション

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第024話:月曜朝の全社ミーティングと、限界突破のOJT

 


 四月十五日、月曜日。午前四時三十分。

 新宿中央公園の空気は、前夜に降った微かな雨の名残で、湿った重みを持っていた。

 都庁のシルエットが、黎明の群青色の中に巨大な墓標のように突き刺さっている。


 だが、その広場の一角だけは、月曜朝の気怠さとは無縁の、異常な「熱量」に支配されていた。


「――一万、二千、八百ッ!!」

 阿部大輝の叫びが、朝霧を切り裂く。

 彼の背後には、佐藤組の十四名。全員が土曜日に調達し、通の「熱処理」によって再構築された新型制服――『深淵の炭素繊維アビス・カーボン』を纏っている。


 その制服は、周囲の光を吸い込むような不気味なほどの黒を湛え、少年たちの動きに合わせて、まるで生き物のように鈍い光沢を放っていた。


「……九! 十……! 一万、三千、完了……ッ!!」

 阿部が地面に膝をつく。だが、その瞳には以前のような「やらされている感」はない。

 つい数時間前の未明、華乃が全世界に放流した『渋谷の亡霊』の最新映像――月曜を告げる特Aランクを蹂躙する兄の姿――を早朝訓練の直前に観た彼らにとって、通はもはや「クラスメイト」ですらなく、跪くべき「王」であり、絶対的な「CEO」だった。


「……五秒遅い」


 公園の時計塔の頂上から、冷徹な声が降ってきた。

 通は音もなく地上に舞い降りる。レベル131の身体能力が、物理法則を「デバッグ」するかのように、着地の衝撃をゼロに相殺していた。


「おはよう、諸君。週明けの定例ミーティング(早朝訓練)の時間だ」


 通は左目の『深淵のモノクル』を指先で叩き、【組織監査・バイタルリンクモード】を起動した。

 視界には、佐藤組全員の筋肉疲労度、魔力残量、そして精神的な「忠誠度」がグラフ化されて表示される。


(個体名:佐藤組。……解析。アビス・カーボンの装着により、基礎防御力が240%向上。……魔導回路の同期率も、週末の『自主トレ』により8%改善。……しかし、月曜朝特有の『精神的デバフ』を完全には払拭できていません)


「阿部くん。制服の着心地はどうだ?」

「はっ! 最高です! ……まるで、全身を強固な鋼鉄の繭で守られているような安心感があります。……なのに、羽毛のように軽い」

「当然だ。一センチ四方あたり、数トンの衝撃を分散・吸収するよう設計してある。……だが、ハードウェアが更新されても、オペレーターである君たちが旧世代レガシーのままであっては意味がない」


 通はインベントリから、一本の『黒い合金の棒』を取り出した。土曜日にギルドで見つけ、昨夜、特Aランクの魔力残滓を付与して「最適化」した、魔力反応警棒。


「今週は『合同演習』がある。これは他校やギルド関係者への、我が組織のデモンストレーション・ミッションだ。……そこで、本日のアジェンダは『新型装備の負荷試験ストレステスト』とする」


 通のモノクルが、怪しく七色に脈動した。

「俺が、今からこの空間の『重力定数』と『マナ濃度』を一時的に書き換える。……阿部、君たちはその中で、昨日の映像で見た『渋谷の亡霊』の動きを、1%でもいいから再現トレースしてみせろ」


「……っ、了解しました、ボス!!」


「――システム展開:『沈黙の執務室サイレント・オフィス』」


 通が指を鳴らした瞬間。

 半径五十メートル圏内の「理」が、暴力的に書き換えられた。

 空間が、粘度の高い液体のように凝固する。

 阿部たちの体感重力は一気に十倍に跳ね上がり、肺の中の空気が圧縮され、内臓が悲鳴を上げた。


(エリア内:重力10G。マナ濃度:極高密度。……副作用:精神的圧迫プレッシャーを最大化。……推奨:適度な『絶望』の供給により、レベルアップの閾値を突破させます)


「ぐ、あ、あああ……っ!」

 少年たちが次々と地面に這いつくばる。重厚なアビス・カーボンが、主人の肉体を守ろうとしてキチキチと鳴動した。


「どうした? 月曜日の出社早々、デスクで寝るつもりか? ……コンプライアンス違反だ。即刻、立ち上がれ」


 通は、その超重力空間の中を、まるですり足で廊下を歩くかのように平然と横切る。

 彼にとっては、この程度の空間変動は「エアコンの温度設定ミス」程度のノイズでしかない。


「魔力を『循環』させるな。『圧縮』しろ。……君たちの体内の魔力回路パスは、まだブロードバンドですらない。……ダイアルアップ接続のような細い管で、俺の供給する高負荷データ(マナ)を処理しようとするな。……焼き切れるぞ」


 通の声は、少年の耳元ではなく、その「魂の核心」へ直接突き刺さった。


「阿部、武器を抜け」

「……ぐ、ぅ、あ、あああああッ!!」


 阿部が、全身の血管を浮かび上がらせ、腰に差した『試作型・魔力反応警棒』を抜き放った。

 その瞬間、警棒の内部に仕込まれた超伝導回路が、通の放つ極高密度のマナを強制的に吸引、変換する。


 シュゥゥゥゥ……!

 黒い棒から、一条の「青い光の刃」が伸びた。

 それは魔法ではない。純粋な魔力を、高密度の物理現象へと変換した『光の太刀』。


「……いける。……これなら、戦える……!」

 阿部が、重力に抗って一歩を踏み出す。

 彼の中で、眠っていた魔力回路が、通の「暴力的なまでのOJT」によって強引に拡張されていく。

 他の少年たちも、阿部の光を見て、その瞳に「生存本能」という名の火を灯した。


「……よろしい。進捗(進捗状況)は良好だ。……では、最終監査デバッグを開始する」


 通は空中で右手を振った。

 すると、超重力空間の中に、十数体の「影の兵士」が具現化した。

 通がレベル131の魔力を分割して作り出した、仮想敵ダミー・エネミー

 一体一体が、Cランク探索者の中隊に匹敵する威圧感を放っている。


「制限時間は三十分。……一匹でも残せば、本日の朝食(福利厚生)は抜きだ。……佐藤組、出撃コミットせよ」


「「「うおおおおおおおおおッ!!!」」」


 絶叫。

 少年たちは、もはや高校生の顔をしていなかった。

 阿部を先頭に、漆黒の制服を翻し、重力を切り裂く光の刃を振るい、影の軍勢へと突っ込んでいく。


 ドォォォォォォン……!

 激しい魔力の衝突音が、新宿の街を震わせる。

 だが、その音も、通が張った「防音結界ノイズ・キャンセリング」によって、一般市民の耳に届くことはない。


 通は、激戦の渦中、空中をゆっくりと歩きながら、その光景を「監査」していた。


(個体名:阿部大輝。レベルアップを確認……14から16へ。……スキル【不屈のリーダーシップ】が発現。……他のメンバーも、平均レベル13に到達。……これで、『合同演習』における他校との格差マーケット・シェアは決定的なものになりました)


「……さて。……そろそろ『定時』だな」


 通は時計を見た。

 午前六時三十分。

 公園の入り口では、早い時間のジョギング客が現れ始めている。

 通が指をパチンと鳴らすと、重力も、影の兵士も、そして少年たちの疲弊すらも、魔法的な「一括デバッグ」によって霧散した。


 そこには、ただ、全身から湯気のような熱気を放ち、ボロボロになりながらも、かつてないほど「生命」に満ち溢れた十五人の少年たちが立っていた。


「……課題、完了タスク・コンプリートだ。諸君、いい仕事だった」


 通は地上に降り、一人一人の肩を叩いて回る。

 その手の温もりが、限界を超えた彼らの肉体に、最高の「報酬」として染み渡っていく。


「さあ、着替えて学校へ行くぞ。……今日は月曜日だ。……一週間の事業計画スケジュールを、完璧に遂行して見せよう」


「「「はいっ!! 佐藤さん!!」」」


 軍隊のような、規律ある返唱。

 彼らが学校の門をくぐる時、他の生徒たちは気づくはずだ。

 昨日まで「不良」や「凡庸な生徒」だった彼らが、もはや手の届かない「プロの集団」へと変貌していることに。


 午前七時三十分。佐藤家。

「……お兄ちゃん、お帰り。……今日の訓練、マジで凄かったよ。……遠隔カメラのデータ、もう編集したから」

 朝食のテーブルで、華乃がタブレットを回してくる。

 そこには、超重力の中、光の刃を振るって影を屠る阿部たちの、神話的な一幕が収められていた。


「……いいエビデンスだ。華乃、これは『合同演習』の最終日に、他校の生徒たちに見せつけてやるといい。……『これが、佐藤組の基準スタンダードだ』とな」


 通は、神崎有栖が「今週は頑張ってください!」とメッセージと共に送ってきた弁当の写真を眺めながら、静かにトーストを噛み締めた。


 月曜日の朝。

 最強の元管理職による、学園の「最適化」が、再び加速を開始する。






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