枯れる前に
「花の命は短いから」
花が好きな母は、そう言いながらよく花を生けていた。
私はその意味がずっとわからなかった。
ネオン輝くこの街で夜の蝶として生きてる。
生活費のために始めたバイト。大学で知り合った子に誘われて。
大学で彼氏も出来た。でもこの仕事のことを話したら、別れを告げられた。
彼を忘れるために、ますます仕事に没頭した。
するとたくさんのお客が私に『愛』を形として与えてくれた。それは時に高級ジュエリーや、豪華な食事であったり…。
一介の大学生では到底手の届かないものばかりで、最初は浮かれたが、物質となった『愛』に囲まれてどこか寂しくなった。
そんな中でもあの人は違った。
接待でよくお店には来ていたが、私を“そんな目”で見ない数少ないお客さんだった。
あの人は既婚者で同じ学部の卒業生ということもあって、駆け引きするような会話はなく、ただただ先輩後輩として話せるのが、私には心地よかった。
大学を卒業し、そのままなし崩しでこの仕事を続けていたが、年齢的にも寿命が近づいてるのは薄々感じていた。
店に来る客は新しい蝶に愛も金も注ぎ、私は次第に補佐役に回ることが多くなった。
さすがに限界を感じ始め、本気で転職を考え始めたある日、あの人は1人で店にやってきた。
私を見つけるや否や、指名してくれて、2人きりであの頃のようにたわいない話をした。
時間が近づき、少し寂しさを感じていると、突然あの人は私の手を握り
「大事な話があるんだ。この後の時間、僕にくれないか?」と、真剣な眼差しで私を見つめた。
「はい…」
私はこの時“ただの女”として返信をしていた。
薄暗がりのバーに行き、あの人はまたお店で見せた表情で私に告げた。
「実は今の会社を退職して、新しく事業を始めようと思っているんだ。そこで君の力を貸してほしい。僕には、君が必要なんだ。僕を支えてくれないか?」
今までの人生で、こんなにも強く、そしてこんなにも熱く求められたことがあっただろうか?
彼は私という“枯れそうな花”に水を与えてくれる存在かもしれない。
例え濁った水だとしても。
そう思うと涙が溢れた。
涙で視界が見えないことをいいことに、私は彼の左手薬指の指輪の跡を気にしながら、こくりと頷いた。




