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第28話 「暴食」の名を冠するスキル




 ブラック・ドラグニルの戦い方には、決まった型が存在しなかった。


 それは彼自身も自覚していない特徴である。剣士であれば流派があり、魔導師であれば体系化された術式がある。大陸の軍隊や騎士団であれば、戦術には必ず規律が伴う。だがブラックの戦闘は、そうした枠組みのいずれにも当てはまらない。


 目の前の環境を読み、相手の動きを観察し、その場で最も合理的な行動を選び続ける。その連続が、彼の戦闘術だった。


 それは訓練された戦闘技術とは少し違う。


 むしろ野生に近い。


 幼い頃から魔物と向き合い続け、森や山や海を渡り歩く中で、彼の身体は自然と多様な状況に適応する方法を覚えていった。環境が変われば戦い方も変わる。相手の生態が違えば間合いも変える。ひとつの型に縛られないというより、型そのものを持たない戦い方だった。


 スライムの前で構えるブラックの姿は、まさにそれを象徴している。


 大剣を振るう剣士の姿に見えるかと思えば、次の瞬間には体術に近い動きで距離を詰める。魔力を放つような兆しを見せるかと思えば、静かな観察に戻る。その動きのすべてが、流れる水のように自然だった。


 ブラックはかつて、剣術を学んだことがある。


 若い頃、ある地方都市の剣士に基礎を教わった。正しい足運び、力の伝え方、刃の軌道。それらは戦うための基本として彼の体に刻まれている。


 魔法も同じだ。


 旅の途中で出会った魔導師から、いくつかの基礎術式を教わったことがある。魔力の流れを感じる方法、簡単な術式の構築、魔力の放出。どれも高度な魔法とは言えないが、戦闘の中で役立つ知識だった。


 ただしブラックは、それらを「流派」として身につけたわけではない。


 剣術も魔法も、彼にとっては一つの材料だった。


 学んだ技術を自分の体の動きと組み合わせ、環境に合わせて使い分ける。そうして少しずつ積み重ねていくうちに、彼だけの戦闘術が形作られていった。


 大剣はその象徴のような武器だ。


 多くの剣士は、剣を中心に戦術を組み立てる。剣をどう振るうか、どの間合いで戦うか、刃の使い方が戦い方を決める。


 ブラックの場合、剣はただの道具の一つに過ぎない。


 彼が本当に得意としているのは、間合いの読み方だった。相手の動き、地形の傾斜、足場の硬さ、空気の流れ。そうした細かな要素を瞬時に判断し、自分の身体を最も効率よく動かす位置を見つけ出す。


 そこに魔力が加わる。


 ブラックの魔力総量は、常人の水準を大きく超えている。特別な魔導師のように精密な術式を組むわけではないが、体の動きと連動して魔力を使うことで、攻撃の威力や速度を自然に引き上げることができる。


 結果として、彼の戦闘には特定の弱点が存在しない。


 剣士に強い敵がいても、魔法で対応できる。魔法を封じる環境でも、身体能力で戦える。相手が空を飛ぶなら地形を利用し、地面を這うなら間合いを潰す。


 多くの戦士は、得意な戦い方を持つ代わりに苦手な状況を抱える。ブラックの戦い方はその逆だった。


 すべてに適応する。


 それが彼の戦術だった。


 そしてブラックには、もう一つ特筆すべき点がある。


 それは彼が生まれつき持っている特性――


 “暴食”。


 その名を持つ異能である。


 本人はそれを能力だとは思っていない。むしろ自分の食欲が少し強い程度にしか感じていない。


 しかしこの力は、彼の存在の根幹に関わるものだった。


 ブラックの戦闘力は、最初から高かったわけではない。


 旅に出たばかりの頃、彼は決して最強のハンターではなかった。大剣を振るう技術も未熟で、魔法も基礎程度の知識しか持っていなかった。危険な魔物に追い詰められたことも一度や二度ではない。


 それでも彼は生き延びた。


 そして魔物を狩り続けた。


 狩った魔物は、必ず食べた。


 肉も、内臓も、骨の髄も。


 食べられるものはすべて食べた。


 その行為が、ブラックの体を変えていった。


 魔物は魔力を宿す生き物だ。


 その肉を食べるということは、魔力を体に取り込むということでもある。普通の人間にはその影響はほとんど現れない。魔力は消化の過程で散り、体に残ることは少ない。


 ブラックの場合は違った。


 彼の体は、魔物の魔力を吸収していた。


 食べた魔物の力が、少しずつ彼の体へ溶け込んでいく。筋肉の強さ、魔力の総量、身体能力の限界。そのすべてが、長い時間をかけて変化していった。


 ブラック自身は気づいていない。


 ただ魔物の味を楽しみ、次の獲物を探し続けているだけだ。


 しかしその裏で、彼の力は確実に増大していた。


 暴食という異能は、そうして静かに働いている。


 食べるという行為の中で。




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