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関東大会前夜、負け確の私が見た花火の話

作者: 雀野ヒナ

 9年前、中学1年の夏。奇跡的に県大会で準優勝し、弱小校の私たちが関東大会への出場を決めたときのことだ。


 私は幸運にもレギュラーメンバーに選ばれ、人生で初めて「大舞台」に立つことになった。大会前日、会場で練習した。けれど、実力、応援、円陣の迫力、すべてにおいて既に負けていた。強豪校たちの雰囲気に圧倒された私たちは、肩を落としたまま静かに宿へ向かった。


 夕食後、気晴らしにみんなで海辺に出かけた。初めての夜の海は少し怖くて、でも美しかった。ひんやりとした空気の中、私たちは水を掛け合い、不安を吹き飛ばすように笑い合った。

 そのときだった。ふと目をやった海の向こうに、小さな赤い花火がひとつだけ、静かに打ち上がった。パッと光って、きれいに咲いて、すぐに消えた。それ一発しか見えなかった。


「あれは明日の私たちかもしれない」


 相手は全国常連のシード校。勝てるはずがない。きっと一瞬で終わってしまう。誰の目にも留まらず、静かに消えていく。

 それでも、あの花火は綺麗だった。誰も気づかなかったけれど、私はちゃんと見ていた。あの一瞬を、心に焼きつけた。

 あの花火になりたいと思った。勝てなくても、注目されなくても、目立たなくても——私は光ってみせる。誰かひとりでいい。私の光を覚えていてくれたら、それでいい。


 翌日、予想通り、私たちはあっさり負けた。正直、試合の内容はあまり覚えていない。

 だけど、あの1ポイントだけは今も覚えている。私がフォアハンドで前衛の横をぶち抜いた、たった一度の鮮やかなショット。その瞬間、私は真っ赤に光っていた。私の中で、ひとつの花火が確かに打ち上がったのだ。


 今年も、花火は打ち上がる。それを見るたびに、私の脳裏ではあの赤い火の花が咲く。


 ――眩い光を放って。


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