プレゼント
「どうだ、美味いだろ。ここの定食は」
彼は一口、茶を飲んでから友人に答えた。「ああ、とても美味しかった。また来たいと思う」うんうんと頷いて、友人は自慢げに笑った。
この日は、彼の誕生日であった。仕事の休憩時に、友人に誘われた。
彼と友人は会社の同期であり同い年、誕生日も近く友人は彼の翌日であった。何かと親近感の沸いた二人は意気投合し、いつしかお互いの誕生日にランチをご馳走しあうようになった。
「明日は僕が払うよ」「おう、楽しみだ」会計時に、彼は気になる事があった。
それは財布であった。友人はよく赤色が好きだと言っていた。てっきり私物のほとんどが赤いのかと思っていたが、その財布の色は違った。
「珍しいね。青色の財布なんて」「僕がなんでもかんでも赤だけにしてると思ったら、大間違いだぞ。これはプレゼントで貰ったんだよ」「ふうん、それもそうか」会計が終わり、それ以降は気にも留めずに、友人と会社に戻った。
翌日、彼は友人に誕生日祝いのランチをご馳走し、会社を定時で上がった。すると、一人の女性を見かけた。友人の彼女だった。
「お疲れ様。あいつなら、残業でまだしばらくかかると思うよ」彼女に近づいて声をかける。彼に気付いたのか、彼女は軽く一礼した。
「お疲れ様です。そうですか、ありがとうございます」とある集まりで友人に紹介してからしばらく経ったのち、付き合うことになったと言ってきた時はたまげたが、二人はお似合いだと思った。今では、たまに三人で遊びに行くこともある仲だ。
「今度は何を渡すんだい?」「新しいネクタイとネクタイピンを、渡そうかと。あとは夕飯を作ってあげようと思ってます。」そう答えた彼女は、とても幸せそうな笑顔だった。
「去年は財布をプレゼントしました。長く使っていて、そろそろ変えたいと言っていたので」「ああ、あの青い財布だね。あいつにしては珍しいと思ったけど、君のプレゼントだったんだ」
昨日の事を思い出し、彼は何気なく言った。すると、彼女はキョトンとした表情をしていた。しかし、それも一瞬の事で、すぐに笑みを浮かべた。
「え、ええ。たまには、違う色もいいんじゃないかと思いまして。まだかかりそうでしたら、先に晩御飯の材料を買っていこうと思います。失礼します」一礼して彼女は足早に去っていった。
気に障るような事を言ってしまっただろうか。そうであれば、悪いことをしてしまった。今度会ったらときに謝ろうと、彼は思った。気まずさを感じながら、彼は帰路についたのだった。
『昨日未明、自宅で男性が刃物で刺され、病院に運ばれましたが、間もなく死亡が確認されました』
「まさか、こんな事になるなんて。ごめんなさい、ごめんなさい……」彼はうなだれ、懺悔するように一人、ただひたすらに泣いていた。だが、もはやどうする事もできなかった。
ニュースキャスターが無情にも告げた。『警察は、死亡した男性と交際関係にあった女を、殺人容疑で逮捕しました。現在も取り調べが続いています』
テレビの画面には、容疑者として映されている、彼女の姿があった。