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第一夜・少女のアリカ

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 「ん……」

 年季の入った椅子が軋みを上げ、嗅ぎ馴れた木の匂いで徐々に眠気が覚めていく。

 気が付くと僕は椅子にもたれ掛っていた。

 連日の徹夜で疲労が溜まっていたのだろうか、そのままの状態で寝てしまったらしい。

 「何時だ……?」

 まだ重い目蓋を擦りながら、痺れた手を伸ばして懐中時計を見る。

 いつもなら動いている二つの針が、壊れたらしく完全に止まっていた。

 運が悪いな……。これだと時間が分からないじゃないか。

 部屋の時計を見ようにも、工房では時間を気にせず作業ができるよう時計は置いていないし。

 一応このだるさから結構な時間寝ていたというのは分かるけど。

 そう思い、石が付けられたように重い体を無理やり起こして僕が立ちあがった、その時。

 「……あ」

 


 求め続けた理想の少女がいた。

 ふと、残っていた眠気が一気に覚め、思い出した。

 彼女を造りあげた後すぐに僕は寝てしまったのだと。

 なぜこんな大切な事に、今まで気づかなかったのだろうか。

 僕は自分でも疑問に思ってしまった。

 


 薄暗い部屋の中でランプに照らし出されぼんやりと、少女の輪郭が浮かび上がる。

 ゆっくりとこの場に満ちた妖しい空気に、僕は侵されていく感じがした。

 部屋に居るのは彼女と自分の二人だけ。

 その事実だけで僕は、期待と不安の入り混じった落ち着かない気持ちになって、胸の動悸が激しくなる。 

 段々と僕以外にまで聞こえそうに、胸の音は大きくなっていくのだ。

 いくら落ち着つかせようとしても、治まる気配がない。

 そんな僕の前で、少女は椅子に座り込んでいる。

 


 長く腰の辺りまで伸びたうす桃色の髪には緩やかなウェーブが掛かっていて、とても綺麗だ。加えてその桃色という色が幼い女の子の印象を、より強くさせている。

 ゆっくり僕は彼女へ近づいて、顔を覗き込む。

 そこにはまるで血のような深紅の赤を溶かし込んだ、ちょうどルビーと同じ宝石色をするつぶらな瞳が見えた。

 きちんと睫毛の並びまで丁寧に手入れが行き届いているのが分かる。

 鼻は小さくとも筋がすらりと美しく、ぽつりと咲くさくらのような唇が瑞々しい。

雪のように白くきめが細かい肌は、すべすべしていそうだ。

 肘掛に置かれた手にある指の一本一本でさえも繊細でいて、優しく触れなければ簡単に折れそうなほど。爪もすべて均等に揃えられていた。

 例えるならば、お人形という言葉が少女にはしっくりくると僕は思う。

 


 だけどこの光景を目にしても、現実は残酷な答えを突きつけてくる。

 彼女の肉体は、作り上げられたモノであるのだから……。

 「…………」

 きっと……。

 「クスクスクス」

 消え入りそうな、小さい笑い声が聞こえた。

 僕の聞き間違いでなければ、この二人しかいない部屋で聞こえた声であれば、間違うはずがない。

 今の声は、

 「アリカ!」

 「お兄ちゃん?」

 僕が大きな声を出してしまった為か、どうしたの? 

なんて不思議そうな顔を少女がしていた。

 人はあまりに驚いたとき、考えた通りの行動が出来なくなるからだろう。

 声を出すのと同時に、自然と僕の足はアリカの元へ駆け寄っていた。

 


 別に自信が無かったわけじゃない。

 ただ自分の願った少女を造ることなど初めてだったから、少し不安があっただけだ。


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