02.冒険者
そこには確かに人々の暮らしがあった。
魔物はおらず、住んでいるのも確かに人間や獣人、ハーフリングなどといった亜人種。
通りには飲食店の何ともいえない美味しそうな香りが漂っていて、それにつられた人達が吸い込まれるように入店していく。
「お腹空いたな……」
しかしお金も金目の物も持っておらず探索を続ける。
この街に住む人達の賑やかな話声は絶えず聞こえてきていて、その意味も理解できる。
神様に貰ったスキルはまだ作用してるらしい。
身体を動かす事に慣れ、すっかり杖の助けも必要なくなってきた頃、存在感のある建物が見えてきた。
他の建物と比べ明らかに大きく、どこか見覚えのあるようなシンボルがあしらわれていて、その下にでかでかと大きな文字で何か書いてある。
「冒険者ギルド?」
以前にも冒険者と呼ばれる人たちは居たけど彼らはどちらかといえば旅人に近くて、こんないかにも冒険者! みたいなギルドなんかは無かったような気がする……
「忘れちゃったのかな」
氷に閉じ込められてる間に思い出せなくなってしまった事は多くあるけど、これはそれとは違う気がする。
しかしここが私の思うような場所なら、今の私の問題を解決できるかもしれない。
そう思い勇気を出して入ってみる事にした。
バタンと音を立ててドアが閉まり、一瞬入口付近にいた冒険者らしき人達が振り向くが、彼らはすぐに自分たちの世界へ帰っていった。
中はかなり広く冒険者らしき人達で賑わっており、こんな魔物を倒したぞ、こんな儲け話があったぞ、なんて、それらしい世間話が聞こえてくる。
「受付は……あった」
ギルドの中を見渡すと、ちょうど入口からみて左手側に進んだ先に受付窓口の様なものが見える。
すぐに受けられる依頼とかあるのかな……登録とかいるのかな……
空腹か緊張か、時折きゅるきゅると鳴るお腹を撫でながら窓口へ向かった。
「いらっしゃいませ! 私受付のミランと申します! 初めてのご利用でよろしかったですか?」
「はい」
「それでは本日はご登録という事でよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「ではステータスを確認させて頂きますね!」
受付に着くとまるで太陽の様に明るい笑顔の女の人に迎えられた。
陽キャだ……って、ステータス?
「すみません、ステータスって」
「はい、二重登録の防止であったり、過去に重犯罪歴がある方等はご登録をお断りしておりまして」
「あの」
「その他にも所有しているスキル等で即席のパーティを組む際に便利に~」
「そうじゃなくて、ステータスって何でしたっけ」
「あ……失礼致しました! 手をかざしステータス、と唱えて頂くとご自身の情報が確認できまして、その中から犯罪ステータス等を共有して頂きたいです!」
こちらの事情を察したミランさんはステータスについて説明してくれた。
そういえばそんなのあった気がする。
「おいおい、あの子マジか」
「ステータスってガキの頃習うよな……?」
こちらの様子を伺っていた冒険者からの嘲笑……というより憐みの声がかすかに耳に入ったが、そんな好奇の目さえ気に留めず少女は言われた通りに手を動かした。
「ステータス」
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【リオ・ヨシダ】
種族 : 人間
性別 : 女
年齢 : 蜈ォ逋セ蟷エ
【スキル】
賢者 - 魔法を会得する際、通常よりかなり早い速度で理解でき、威力に補正が入る。
魔力の理 - 魔法を発動する際、通常より少ないMP消費量で発動でき、威力に補正が入る。
魔力循環 - MPの自動回復量に補正が入る。
氷結耐性 - 状態異常【氷結】に耐性を得る。
毒物耐性(小) - 状態異常【毒】に少しの耐性を得る。
【固有スキル】
異世界言語理解 - 【ユグレリア】の言語全てを理解できる。
氷魔法 - 特殊属性魔法【氷魔法】を会得できる。
収納魔法 - 【収納魔法】を会得できる。
【称号】
異世界転移者
魔王を封じし者
賢者
長寿
根暗
【状態異常】
記憶欠乏
筋力低下
【犯罪ステータス】
善良
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根暗……?
一部心外な内容が含まれていたが、それ以上に見られてはいけないような項目がいくつかあるような……
「共有して頂くのは犯罪ステータスと、公開しても問題ないスキル等だけで問題ありませんよ」
不安が表情に出てしまっていたのか、ミランさんが助け船を出してくれた。
なんでも人にステータスを共有する際は内容を選択できるらしく、熟練の冒険者さん達も奥の手を隠してるものなんですよ、とこっそり教えてもくれた。
「固有スキル!? し、失礼しました。すごいじゃないですか、スキルも有用な物ばかりで……」
とりあえず名前と異世界言語理解を除いたスキル、そして犯罪ステータスを共有する事にした。
固有スキルは珍しいらしく、ミランさんは思わず声を上げた後、申し訳なさそうに声量を落としていた。
「はい、リオさんのステータス確認できました! それでは冒険者カードの発行と登録手続きがございますので、お掛けになってお待ちください」
「ありがとう」
「それと、冒険者さんの中には気性の荒い方も居らっしゃるのでお気をつけくださいね」
最後の言葉に引っ掛かりを感じながらも、受付から少し離れた開いている席に向かった。
「まぁ大丈夫でしょ」
『ドンッ!』
両脚をぱたぱたと遊ばせながら手続きを待っていると、突然目の前の机に力強い衝撃が響いた。
視線を上げると、机に力強く手を置く男がにやにや笑いながらこちらを見下ろしている。
「おう嬢ちゃん、新入りか?」
大丈夫じゃなかった。