4話:エルフの少女
時が経ち、俺はオルドから学びながらも自分自身で力を磨いていた。まだ身体は幼いが魔力は100万を超え、村の周りにいた魔物たちは、俺の手で一掃された。村人たちは魔物がいなくなったことに喜んでいたが、それが俺の仕業だとは知らない。
村の誰にも気づかれないように、俺は毎晩こっそりと森や洞窟へ向かい、次々と魔物を討伐していった。最終的には山の上のドラゴンばかり倒す日々が続き、力も増していった。
ステータス
名前: 黒野鍵一
種族: 人間
称号: ドラゴンスレイヤー
魔力: 1,050,000
魔法: 時空魔法
技能: タイムストップ、ディメンションクラッシュ、クロノシフト、エターナルリターン、タイムディストーション、クロノフリーズ、スペースリフト、グラビティフリー
耐性: 時間歪曲耐性、空間崩壊耐性、時空反動耐性
「まさか人間で魔力が100万を超えるとは…。魔王と並ぶほどの力じゃ。しかもドラゴンスレイヤーって...。」
オルドは俺の額に手を当てながら、驚愕を隠し切れない様子だ。だが、深くは追及してこない。彼なりに俺の成長を受け入れているのだろう。
「クロノよ、ステータスは絶対人に見せてはいけないよ」
「うん、魔王って、そんなにすごいの?」
「うむ。アメイジア大陸には7つの王国があり、それぞれを率いる“魔王”は、その地位にふさわしいだけの魔力を持っておる。お前がこの世界でそのクラスの力を手にしているというのは、並大抵のことではないんじゃよ。」
オルドの言葉を聞きながら、俺は自分の力がどれだけ重要な意味を持っているのかを理解し始めた。だが、この力はまだ単なる道具に過ぎない。俺の最終目標はウイルスを除去して梨田を生き返らせること。そして、世界の創造主に会う事だ。
その夜、俺はいつものように夢の中で梨田と作戦会議をしていた。この空間は彼女の部屋を模倣しており、ここにいる時だけ俺は元の姿に戻れる。梨田とこうして話せることは、俺にとって唯一の安らぎだ。
「けんちゃん、おかえり。」
「ただいま、梨田。この世界は相変わらず複雑だよ。だけど、少しずつ俺の力も強くなってきた。」
「それはいいことね。でも、力を誇示するのは危険だと思うわ。まだこの世界がどう動いているのかも、完全には把握できていないんだから。」
梨田の言うことはもっともだ。俺が無闇にこの力を使えば、敵対する存在に目をつけられるかもしれない。今は慎重に力を温存しながら、この世界を探っていくべきだ。
「それに、私たちにはウイルスを倒すという大きな使命がある。今は情報を集める時期よ。」
「確かにな…。そのためにも、まずはこの世界の構造や法則をもっと理解しなきゃならない。」
次の日、オルドが突然一人の少女を連れて現れた。彼女はエルフの少女で、名前をリーファと言った。オルドの隣に立つ彼女は、俺を警戒するかのようにこちらを見つめていた。
「クロノよ、こちらはリーファじゃ。彼女は治癒魔法が得意なエルフじゃが、ここ数ヶ月、頭痛に苦しんでおってな。わしが治療を引き受けることになったんじゃ。」
オルドの言葉を聞いて、俺は少し驚いた。エルフのリーファがどうしてこんな辺境の村に?そして、彼女の持つ力とは?
「よろしくね、クロノ。」
リーファは軽く頭を下げたが、彼女の目には明らかな警戒心が見え隠れしている。俺もまだ彼女のことを信頼しきれているわけではないが、少なくとも彼女もこの世界に何か特別な役割を担っているのだろう。
「…よろしく。」
俺も簡単な挨拶を返す。オルドは彼女を治療するため、しばらく自分の小屋に住まわせるつもりらしい。リーファが村にいることで、何か新しい情報が得られるかもしれない。
その夜、再び夢の中で梨田と会話を交わした。
「けんちゃん、リーファというエルフの少女…。彼女も何か秘密を抱えているんじゃない?」
梨田は俺の警戒心を見抜いたように、静かに問いかけてきた。
「わかってる。彼女のことをまだ完全には信用できない。オルドが何も疑っていないようなのが逆に気になるんだよな。」
「でも、彼女もまた、この世界に何か特別な役割を持っているのかもしれないわよ。彼女自身、まだそのことを理解していないのかもしれないけど。」
「それは感じる。リーファがこの村に来たのも、偶然じゃないような気がする。彼女の力がどれほどのものなのか、これから見極めていく必要があるな。ウイルスの可能性も否定できないし。」
それからリーファはオルドの下で暮らし始めた。俺は彼女の治療を手伝うこともあったが、彼女が完全に打ち解けるにはまだ時間がかかりそうだった。
「リーファ、調子はどう?」
「…少し良くなったわ。ありがとう。」
俺たちの会話はまだぎこちないが、時間をかけて信頼を築いていくしかないだろう。彼女の力が、まだなんなのかわからないが、探っていく必要はありそうだ。
数日が経ち、リーファの頭痛は次第に和らぎ始めていた。彼女は少しずつオルドの治療に馴染み、村の中を歩き回る姿も見かけるようになった。俺たちの間にも少しずつ信頼の芽生えが感じられるようになったが、彼女の中にはまだ何かが引っかかっているようだった。
ある晩、リーファが突然、苦しそうに頭を押さえ、しゃがみ込んでしまった。彼女の表情には強い痛みが浮かんでいる。
「リーファ、大丈夫か?」
俺は慌てて彼女に駆け寄り、肩に手を置いた。リーファは息を荒げ、顔を歪ませていたが、やがてゆっくりと呼吸を整えて立ち上がった。
「…また頭痛が。」
「まだ治りきってないのか?」
「違う…これはただの頭痛じゃない。」
リーファは不安げな表情を浮かべたまま、俺を見つめた。その瞳には、何か言いかねている様子が伺えた。
「この痛みの原因、最近わかってきたの。私は時々、未来の出来事を…見ることがあるの。」
「未来?…それは予知みたいなものか?」
俺は彼女の言葉に驚いた。未来を見る力を持つなんて、聞いたこともなかった。
「ええ。正確には、未来の断片的な記憶が私の中に流れ込んでくるような感覚なの。でも、いつもそれがどこで起こるのか、はっきりとしたことまではわからないの。」
彼女は言葉を選びながら話しているが、その表情には何か強い不安が感じられた。俺は静かに彼女の言葉を待った。
「さっき、また未来の記憶が頭に浮かんだの。今までで一番鮮明だった…。」
リーファは一瞬、言葉を詰まらせたが、続けた。
「…エルフの村が、炎に包まれていたの。全てが燃え尽きるような光景だった。」
「エルフの村が燃える?」
俺はその言葉に息を呑んだ。リーファの頭痛が未来予知によるものであり、その予知が現実になる可能性があるのなら、彼女の村に何か重大な危機が迫っているということだ。
「リーファ、そのビジョンはどれくらい具体的なんだ?いつ、どこで起こるのか、わかるか?」
俺の質問に、リーファは困った表情を見せながら首を振った。
「場所はわかったわ…それは、私が生まれたエルフの村。でも、いつ起こるのかは…わからない。ただ、近い未来のような気がしてならないの。」
彼女の言葉に、俺の中に一つの決断が芽生えた。
「その村までどのくらいかかるんだ?」
「森を越えて2日ほどの距離よ。険しい山道があるけど、私なら案内できる。」
リーファの目には、何とか自分の村を守りたいという決意が浮かんでいた。俺は彼女の意志を尊重し、何も言わずに頷いた。
「よし、オルドにこの話をしよう。彼も一緒に来てくれるはずだ。」
リーファは少し驚いた顔を見せたが、すぐに頷いた。
「オルドさんにも協力をお願いしたいわ。彼の力があれば…。」
その後、俺たちはオルドの元に向かい、リーファの予知について話をした。オルドも初めて聞く話に驚いたようだったが、彼女の言葉を疑う様子はなかった。
「ふむ…リーファ、お主がそんな力を持っているとはな。エルフの村が炎に包まれるというのは、気がかりじゃ。」
オルドは長い白髪を撫でながら、深く考え込んでいた。
「私たちもすぐにエルフの村へ向かおう。準備は怠るな。クロノ、リーファを守るんじゃぞ。」
「もちろんだ。すぐに出発しよう。」
俺たちはオルドと共に、リーファの故郷であるエルフの村へと向かう準備を進めた。リーファの予知がどれだけ現実的かはまだわからないが、危険が迫っていることは確かだ。
「リーファ、心配するな。俺たちが行けば、必ず何とかなる。」
リーファは不安そうな顔を浮かべていたが、俺の言葉に少しだけ微笑んだ。
「…ありがとう、クロノ。」
その言葉を最後に、俺たちはエルフの村へと向かう冒険の第一歩を踏み出した。燃え盛る未来を変えるために――。