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8話(悪魔のおうち)


「悪魔って人間界に家もってるの!!」


「ええと家っていうか、魔界が管理してる部屋が人間界に点在してるんだよ。場合によってはターゲットをしばらく見張らないといけないし……。悪魔によってはターゲットに合わせて引っ越したりするらしいんだけど」


「ミケは引っ越さないんだ?」


「引越しめんどくさくて……」


「人間みたいなこと言う……」


 しばらくミケの後について行くと、三階建てのアパートの前でミケが立ち止まる。


「ここだよ」


「おー!! 早く入ろ!!」


 ミケをぐいぐい押しながら歩く。押さないで〜という文句を無視して三階の部屋まで歩いたところで、ミケが振り向いた。


「多分…汚くはないと思うんだけど…」


「私気にしないから!!」


「いや……。うん、ちょっと待っててくれる?」


 五分ほど待ったところでミケが扉を開ける。


「お邪魔しまーす」


 靴を脱ぎ、揃えて部屋に入る。飛べるのだから必要無いかもしれないが、郷に入っては郷に従わねば。ミケに続くように部屋に入るとベッド、テーブルと必要最低限のものしか無い簡素な部屋だった。


「……シンプル!!」


「ものは言いようだよね」


 ベッドを背にしてクッションに座り込むミケの隣に座る。座る時、肩同士が触れ合って、ミケの肩が強張ったのが分かった。


「じゃあ作戦会議ね!!」


 緊張を和らげるように肩を叩く。いっそう強張った肩に何か声をかけようとしたけれど、ミケがするりとタブレットを取り出したのでそちらに目線を向ける。


「堕ちた悪魔について、ラグエルさんから資料送られてきてるよ」


「よし、ひらけひらけ〜。……と言っても概要くらいだね」


「そうだね。人間界で堕ちた姿で発見されて今は更生施設に。事例は今のところ三体……」


「いつも思うけど、私達の数え方、三人って言われても人間じゃないしなって思うし、三体って言われてもなんか動物みたい……って思わない?」


「ふ、そうだね」


 ようやくミケの見せた笑みになんだか安堵する。会って間もないのに、リリスは随分とミケを好ましく思っていると自覚する。なんでだろう、と考えそうになって、仕事に集中するため首を緩く振る。


「リリスちゃん?」


「んーん。この悪魔達から話聞けたりしないかな?」


「たぶん更生施設にいるなら話くらい聞けるんじゃない? ある程度話を通しておく、ってラグエルさんのメールにも書いてあるし」


「じゃ、行ってみようよ」


「え、今日行くの?」


 きょとりとミケはリリスを見る。


「ん、ダメだった?」


「んー」


 ミケがぽすりと背にしたベッドに頭を預ける。


「今日はもう店仕舞いだと思ってた。まだ2週間あるしもう休もうよ」


 その体勢のまま目を瞑るミケの頬をつまむ。リリスは先ほどから思っていたが、ミケはかなりめんどくさがりというかマイペースらしい。


「やーめーてー」


「ミケってめんどくさがり? よく多忙な悪魔やれてるねぇ」


「出来ちゃうと仕事振られちゃうから、ほどほどにしてるの」


「世渡り上手め」


 見た目通り、つるつるの頰が気持ち良くて軽く摘んでは引っ張る。


「リリスちゃんは真面目そうだね」


「真面目というか……やる事あるとすぐ動いちゃうというか」


「えらいね」


 視界が少しだけ、暗くなる。ミケの大きな手のひらが陽の光を遮るようにリリスの頰に添えられていた。視線を手のひらから顔へ。ぱちりと透き通るような碧眼と目が合った。ミケとは会ったばかりだというのにつらつらと言葉が出る。けれどこの時は言葉に詰まり、無言で見つめ合うだけになる。なんだか甘ったるい空気が流れ始めた。


「えい」


「ふぎゃ」


 すると、思い切り頰を摘んで伸ばされた。頰を抑えている間に、ミケは立ち上がり、リリスに手を差し伸べる。


「行こっか」


 リリスの頰を摘んだその手を掴む。高鳴る鼓動を無視してミケの腕を取り、部屋中の甘やかな空気を霧散させるべく高らかに声を出す。リリスの気分は空気清浄機だ。


「さあ行くぞミケ」


 まるで冒険へと繰り出す勇者のようにミケを先導する。眩しそうに目を細めたミケが、ゆっくりと歩き始めた。


「と見せかけて!!」


 素早くベッド脇のクローゼットに手をかける。好きを見せたなミケ。リリスちゃん!という焦った声を無視して観音扉型のそれを開けると、ばさばさと黒いスーツやらスウェットやら無造作に落ちてきた。


「うわ!」


「もー……」


 ミケはリリスをじとりと睨む。


「ごめんね。隙を見せるから」


「隙も何も俺の部屋だよここ……」


 もそもそと山のように積まれた服を拾い上げるミケに声をかける。


「片付けてくれてありがと。でも気にしないよ?」


「……俺が、」


 小さく呟いたそれは聞き取れなかった。聞き返すまもなくすたすたと玄関に向かうミケに慌てて着いていく。



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