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7話(悪魔の仕事)


「あの子だ」


 ランドセルを背負う男の子の集団を地上から発見する。どうやら小学校からの下校中らしい。


「裕太もコロモンカードやろーぜ!面白いよ」


「うーん……。お母さんに聞いてみるね」


「てか俺この前レアカード出た!!」


「え、まじ!?」


 江上裕太。どうやらあの子がターゲットのようだ。


「にしても善と悪の判断なんてどうやってするの?」


 ふと疑問に思った事をリリスは尋ねる。悪魔に関する情報はあまり天界には回ってこない。


「心を読むんだよ。えーとね、見た方が早いかも」


 言うや否や裕太の側に降り立ち、その子の肩を叩く。すると、裕太からグレーがかった白い吹き出しがぽこぽこと溢れてきた。


(最近みんなコロモンカードの話ばっかりだ)


(お母さん、いつも帰り遅いし)


「おー!!」


「これが裕太くんの感情ね」


 コロモンカードの話に盛り上がる友達の輪から一歩離れた裕太は、どこか寂しげだった。


「あ、今日タイミングいいかも」


 ミケがぽそりと呟くので彼を見ると、タブレットに何か入力しながら裕太を指差す。見ておけということらしい。


「ばいばい裕太!!」


「また明日ー!!」


 裕太は友達とここで別れるらしい。裕太が一人で歩いて行く先には「駄菓子屋」と書かれた看板のついた建物がある。裕太は通り過ぎようとして、立ち止まる。足をもだもだと動かして、最終的に迷うように建物の中に入っていった。

 中のレジには店番らしきお婆さんが座っている。入店した裕太をちらりと見やると、年季の入ったテレビに視線を戻した。

 裕太は迷うことなく、ある場所へと歩いていく。入ってすぐの棚の一番端っこ。


(コロモンカードスターターキット…やっぱり高い)


 コロコロモンスターカードスターターキット、2500円。まん丸としたねずみのようないらすとがでけでかと書いてある。これが例のコロモンカードらしい。

 裕太はポケットから小さな財布を取り出す。中には5、10、100と書かれた硬貨が十数枚ほど。


(……やっぱり、足りない)


(お母さんに聞こうかなあ。でもしばらくやきんだから遅くなるって言ってたかも)


 裕太がため息をついて店から出ようとした時、裕太が足を止めた。裕太の視線の先を見ると、店主であろうお婆さんがうつらうつらしている。


(寝てる)


(今なら)


(でも)


 裕太からぽこぽこと吹き出しが出てくる。さっきまでグレーだった吹き出しが真っ黒に染まっていた。


「……ミケ」


 裕太の次の行動を想像してミケに話しかけるが、ミケはすでに裕太のそばにいた。


(「これで友達の話についていける」)


 ミケの発した言葉が吹き出しとなって裕太の側を漂う。それをきっかけにしたように、裕太から黒い吹き出しが溢れ出る。


(そうだこれで仲間外れにされなくなる)


(でも悪い事をしたらダメってお母さんが、)


(これを黙って持ってくのは悪いことで、)


 裕太の周りを黒々とした感情が蠢いている。固唾を飲んで見守っていると裕太のズボンのポケットが震えた。びくりと肩を震わせた裕太がゆっくりと黄色いスマホを取り出す。


(お母さん、今日早く帰れることになったって)


(…お母さんに、お願いしてみよう)


 真っ白な吹き出しと共に裕太は店を出て行った。




「ん、問題なし。善だね」


「お、おわ〜。いや良かった……」


 なんだか安心してミケの側に降り立った。


「あの吹き出しの色が変わるのは?」


「悪い感情に支配されたら黒、善い感情で発言すれば白って感じに色が変わるんだよ」


 やはり感情によって吹き出しの色が左右されるらしい。その証拠に、裕太が盗みを働こうとしていた時は、黒い吹き出しになっていた。


「グレーだと、悪い感情にやや染まってる。俺達悪魔は、そんな人間の心を突っついてその時の行動を見てるんだよ」


「なるほど」


 ミケが裕太のそばで盗みを助長させるように囁いていたが、その時の行動を見る、ということだ。


「でも意外。結構早く終わるものなんだね」


 裕太を見つけてきっかり三十分ほど。橙色に染まった空を眺めながら、リリスは呟いた。


「今日はラッキーだったよ。長引くことも全然あるし。会った瞬間吹き出しグレーだったし」


 ミケはそう言って、タブレットを取り出した。タブレットに何かを入力するミケと共にタブレットを覗き込む。



父:?

母:存命、仕事多忙?

判断:善

判断理由:



 つらつらと入力していく。


「分かったことはなんでも入力する。二回目以降で役立つかもだし」


「なるほど」


 タブレットからミケに目を移す。数十秒ほどしてミケが耐えかねたように目を逸らした。


「……何?」


「いや悪魔大変そうだから、えらいなって」


 ミケの肩にリリスの肩をぶつけに行くと、ミケのタブレットを持っていない手が首元に当てられる。


「うん、今日俺頑張ってる。…リリスちゃんいるし」


 ミケとようやく目が合う。


「…これ!! これ何?」


 なんだかむず痒くなって、駄菓子屋の棚のお菓子を見てあれはなんだこれはなんだと質問攻めにした。






「とりあえず今日のノルマはクリアだね。この後どーしよっか」


 駄菓子屋を後にし近くの商店街をぶらつきながらミケはリリスに尋ねる。


「今日の悪魔の仕事は終わり?」


「うん。次の悪魔の仕事についてはターゲットが更新されないとなんとも。堕ちた悪魔に関する調査の方やる?」


「と言ってもまず何から手つけるかだよね。どっか落ち着いたとこで話し合い出来るといいんだけど……」


 人間の店に行ったって自分達は見えないし、また天界や魔界と行き来するのもめんどくさいし。そう言うとミケが立ち止まって考えるように口元に手を当てた。


「ミケ?」


「……あのさ、リリスちゃん。


 うち来る?」


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