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15話(祝福の鐘)


「ミケ!!!」


 電波塔の上。ミケはそこに居た。周りに誰も見当たらないところを見るに、無事私が一番乗りだったらしい。


「リリスちゃん……」


 ミケは呆然と私を見つめている。3mほど離れた場所からさらに近づこうとした。


「来ないで」


「!」


 ミケがその場で蹲る。


「……最初は変な悪魔に絡まれて……。若いくせに中級がなんだとか、会いたい天使がいるらしいが無理に決まってるとか、言われたから、あんたが無能なんでしょって言い返した」


 ぽつりとミケが話し始める。


「そしたらそいつの羽が堕ち始めて……。その時気づいた。俺の悪魔としての能力って結構高いんだって」


「ミケ」


「悪魔にも人間みたいに囁けるって」


 そういって蹲っていたミケは顔だけ上げる。


「悪魔の人手不足は分かってたし、リリスちゃんがその解消のために色々提案してるのも知ってた。だから、もっと人手が減ればいいのかなって色々試して、結果何人か堕としちゃった」


 ゆっくりと刺激しないように近寄る。


「でも」


 ぽろぽろとミケの黒い、艶やかな羽が落ちていく。


「ミケ」


 エリクの様子、堕ちた悪魔の話、色々総合すると、『堕ちる』原因は罪悪感だろう。人間の欲に漬け込む時と同じように、悪魔の欲に漬け込み、罪悪感によって悪魔は堕ちる。ミケが堕ちなかったのはきっと、今の今まで罪悪感が無かったから。でも、目の前で國神が堕ちるところを見て、芽生えた罪悪感が今ミケを襲っている。


「リリスちゃん」


 ふらりとミケが立ち上がる。ぼろぼろになった羽根はきっとミケを飛ばしてはくれない。ここから降ろすため手を伸ばす。


「ミケ、手掴んて!」


 ミケが手を伸ばす。その時、突風が吹いた。ミケの体がぐらりと揺れる。


「……っセーフ」


 ギリギリのところでミケの手を掴む。ただ、腕一本に一人分の体重が乗るというのは中々辛い。どうにかしてミケを引き上げないと、と考えていて、気づいた。


 ミケが握り返してこない。


「ごめんね」


 するりとミケの手が抜けて落ちていく。ミケの羽は骨が見えていて、もちろん機能していない。


「もう!」


 咄嗟にミケめがけて飛ぶ。私の羽は二人の体重に耐えれるようなものじゃない。それでも。ミケは拒否するように顔を歪めている。


「ミケ!」


 抱きつくようにミケの体腕を回す。落下速度は下がったものの、未だ落ち続けている。離せ、と言うようにミケはもがいた。

 その時、私の頭上にある輪が光った。


「え」


 みるみるとミケの羽がもとに戻っていく。


「ミケ!!!」


 思わず口角が上がり、ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。頰に湿った感触がして、見ればミケの目から涙が溢れて、重力に逆らって私の頰にこぼれ落ちている。涙を掬うように唇をミケの目元に寄せた。


「なんで……」


「考えるのは後!! それより、ぐぇ」


 落下ギリギリでミケの羽が元に戻ったものだから、落下は免れたものの低空飛行した俺達は付近の山に見事に突っ込んだ。


「いてて……」


「リリスちゃん、蔓が引っ掛かってる……」


「ほんとだ」


 木の枝をへし折りながら落下した。木の枝が緩衝材になったらしく、擦り傷だらけになったものの大きな怪我は無さそうだ。ミケが私を抱きしめるように守ってくれたおかげでミケの方が傷が多い。慌てて上体を起こす。


「……」


「……」


 何から話せばいいのか。お互い口を開いては閉じて、そしてミケが話し出した。


「俺、上司に自首してくる……」


「!」


「だからその、もし償った後に、俺のことまだ好きでいてくれたら」


 つい頭がカッとなってミケの襟首を掴む。


「いいの? 私が他の奴が好きになったって言っても」


「え」


 ミケが大きく目を見開く。


「いいの?」


「……」


「ああそう、良いんだ」


「嫌だ!!」


 そうだよね、そんな殊勝なやつじゃないよね。にんまりと口角を上げて、隠し持っていたものをミケの上にばさりと置く。


「わ」


 上を向いたミケは溢れてしまうくらい、さらに目を開いた。


「これ……」


 小ぶりのピンクの花で作られた輪っか。小さな頃、ミケに貰ったのと同じだ。


「作った。さっき」


 花は、人間に化けてから花屋のターゲットに近づいて購入した。


「ミケにあげる。意味、知ってるんでしょ?」


 永遠に続く愛の絆、だったか。ミケの両頬を手で包む。


「ミケ、ラグエルの話聞いてなかったの? ……パートナーは連帯責任、なんだってさ」


 頭には葉っぱがついていてボサボサ。顔も体も擦り傷だらけ。地面に寝そべって腕だけで上体を起こして惚けている。大きな目をまんまるにしてこちらを見るこの悪魔が、最高に愛しかった。







 遠くに鐘の音と、少し遅れて拍手の音がした。


「リリスちゃん、またパートナー出来てる」


 書類と睨めっこしているリリスに話しかける。こちらを振り向いた拍子にぴょこりと一つにまとめた髪が揺れるのが可愛い。


「もう三組目だっけ」


「見に行きたかった?」


「まあね、でも謹慎中だし」


 あの後各上司に全部報告して、結局、俺たちは謹慎となった。謹慎と言っても、指定した部屋で生活してパートナー制度の仕組み作りを一から考えろ、というもので。

 罰則も何も無かったものだから拍子抜けして、リリスちゃんが尋ねていた。


「それだけですか?」


「パートナー制度自体は有用なようだし、堕ちた悪魔に天使の力が有効なことも証明してくれたのは大きな功績だ」


 それに、とラグエルは微笑む。


「もう会えないと思っていた旧友に会いたいと思うのは、君たちだけじゃないってことさ」


 そう言って隣の俺の上司にあたる悪魔の女性を見つめるラグエルはとても優しい目をしていた。


「まあもちろん、全体的にミケくんのことは周知しないものの、上層部は把握している。出世はしにくくなるだろうね」


「はあ……」


 リリスちゃんがいれば何だっていいけど。そのリリスちゃんがばしばしと俺の肩を叩く。


「だーいじょうぶだって!! 私が引っ張り上げてあげる!!」


 そうして、リリスちゃんと俺は割り当てられた部屋に住みながらパートナー制度を作って、精査して、最近漸く実行に移されている。


「エリクに一番乗り取られちゃったなー」


「はは!! 楽しそうだったねえ」


 俺達が謹慎中でパートナー制度の申請が出来ないのを良いことに、エリクはしれっと警備隊から悪魔に戻って、アリーちゃんとパートナーを組んだ。俺がやったことについては、すぐアリーちゃんの力で回復したし別にいい、と笑っていた。アリーちゃんには蹴りを入れられたけど。

 窓の外を見れば、パートナー制度締結の正式な儀式は終わったというのに人混みはどんどん増えていく。そして、三組目としてパートナーを組んだらしい二人の女性が後ろ手に持っていた花冠を互いの頭に乗せ合っていた。

 誰が言い出したのか、パートナーを組むときに花冠を交換する、というのが暗黙の了解となっている。


「誰から知れ渡ったんだろね」


「アリーじゃない?」


「だよね」


 たまにアリーちゃんとエリクは遊びに来ては、パートナー制度のここは変えた方がいいだの茶々を入れにくる。貴重なご意見、助かってはいるんだけどさ。

 窓の外を見る俺の隣にリリスちゃんが並ぶ。


「でも俺達が一番最初のパートナーだもんねだもんね」


「ふ、まだ言ってる」


 リリスちゃんの頭の後ろに手を回して髪の結び目を解く。顔を寄せればリリスちゃんは頰を染めながら目を瞑った。

 鐘の音が、祝福している。

 


拙い文ですが、読んでいただきありがとうございました!!!!

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