12話(両想い)
R-15要素有り
「こらこらこらこら」
「む、なんで抵抗すんの」
ミケの部屋のベッドの上。何故か私はミケに押し倒されている。届いた私用の布団は開封されぬまま、廊下に置かれている。
ずっと思っていたが、こいつは私がミケが好きであることを確信してない? もしかして私ダダ漏れだったりする?
「そうだよ」
「心を読まないで!」
ぎぎぎ。徐々に私の体は後ろに倒れていく。だが私にも譲れないことが一つある。
「何か、私に言うこと、あるんじゃないのっ!」
腹筋がぷるぷるしてきたが、必死に目の前の男を睨みつける。
「……」
ミケは口を開かない。両手首から力が抜けたと油断したところで、肩をぐっと押される。
「のわ!」
ぼすりと背中がベッドに沈み込む。追いかけるように覆い被さるミケに、ここまで言って言うこと聞かないなら一発蹴りでもいれるか、と足に力を入れる。
「リリスちゃん」
ミケは私の顔の横に両肘をついたまま、私の肩に額を埋める。
「俺が何言っても受け入れるって言って。嫌にならないって」
この男は私の好意に気付きつつ、それでも背中を押して欲しいらしかった。そっとミケの背中に左手を添える。私のとは違う黒い羽に手が触れた。
「約束するよ」
我ながらすごく穏やかな声が出たなあ、と思った。そしてそれはミケにも伝わったらしい。強張っていた肩から力が抜けてちょっとだけ私の体にかかる重さが増える。暫くしてからミケは顔を上げて私の頰に片手を添える。
「……俺ね」
「うん」
「リリスちゃんが好きだよ」
「うん」
私も好きだよ、と言うと同時にミケのピントがズレて唇に何かが触れた。
「……こういう好きだよ。友達とかじゃないよ」
「わかってるよ」
そう言うと、漸くミケは目尻を下げる。もっと喜んで欲しくて自分から唇を寄せた。
「んむ」
頰に赤みが増していて可愛いなあ、と思う。ちゅ、と軽く触れるバードキスを何度かしていると、唇にぬるりとした別の感触が触れた。
「、!?」
驚いて瞼を上げるとぱちりと目が合う。いやガン見しないで。こういうの目を閉じるものじゃないの。軽く睨むと目を合わせたまま唇を舐められて、先ほどの感触はミケの舌だったらしいことを知る。一気に頰が熱くなった。
「……リリスちゃん」
口を真一文字に結んだままの私に焦れたように名前を呼ばれる。熱い吐息が唇に当たった。正直に言おう、多分私はびびっている。今までこんなことしたことないし。人間はこういう営みをする、と聞いたことがあるだけだ。でも、ミケの目線はじとりと熱を帯びていて、頰を擽るように撫でる手は優しい。だから、まあいいかなと思ったのだ。
そろ、と口を少し開いてミケの舌先に触れる。ちゅ、と音がするのが恥ずかしい。ミケは一瞬目を開くとそのまま舌を押し入れた。
「ん、……ふ、ぅ……」
くちゃりとした音に頭が沸騰しそうだ。口の端から唾液が少し溢れた。ミケの背中に回していた手でそのままジャケットを掴んで引っ張る。絶対に皺になるけど知ったこっちゃない。
「んむ……んー!!!」
離せと言外に示しているのに止める気配はなかった。ついに口でも抗議する。発音は出来てないが。
「ぅ!? ……ふ、……」
上顎を舌で舐められてジャケットを掴んでいた手を離してしまう。けれども、漸く唇は離された。
「……何?」
ミケの襟首を掴む。
「私以外に、」
「え?」
「私以外に経験あるって、今、素直に言えば、デコピンだけで許してあげる……」
本当は殴りたいけど。でも付き合ってなどいなかったし。でも私のデコピンは相当痛いぞ。アリーのお墨付きだ!!
ちょっとやけになっていると、ミケが手を口に当てて黙り込んだ。
「おーい、ミケくん? 吐くなら今のうちだよ」
そして守るなら口ではなく額だ。
「……てだよ」
「なに?」
「リリスちゃんが、初めてだよ」
「はあ!? 嘘、だってミケ……」
そこまで言って口をつぐむ。だって私の言おうとしていることは。ぷい、と横を向くとその頰にミケが頰を擦り寄せてくる。
「俺嬉しいよ」
「うるさい……こっちはいっぱいいっぱいなのに」
むかつく、と唇を尖らせればぎゅっと抱きしめられる。
「俺だってそうだよ」
そう告げるミケの心音が、抱きしめられたことにより伝わってくる。どくどくと素早く脈打つそれは私と同じくらいか下手したら俺以上に速い。
「……ふうん」
すごく嬉しいのに、なんとなく素直になれなくてつれない言葉を返してしまう。
「口元、笑ってるよ」
唇をそっと撫でられる。また顔を近づけてきたので目を閉じて首の後ろに腕を回した。
「ぅ……」
かれこれ30分くらい経った気がする。なんかかなりしつこくない? 舌とか痺れてきた。もう終わりとでも言うように、顔を背けても追いかけてくるものだから中々終わらない。
「ひぅ!?」
嬉しそうにしてるし、好きにさせてやるかと思っているとシャツとジャケットの間を手が這う。ミケの目を見ると唇を合わせたままじっと見つめてくるだけだ。知識としては知っている。人間のするその営み。本でも読んだ。でも、自分に当てはめて考えたことなんて一度も無かった。
思わずミケの首の後ろに回していた腕を片方外して、ミケの手を掴む。掴むというより添えているぐらいの力加減だろうけど。そうすればミケは止まると、思っていた。
「……リリスちゃん」
「ぇ」
私の体を這う手は止まらないし、なんならシャツの下に潜り込んでいる。擦り寄せられる顔は熱い。
「……ミ、ミケ」
思わず呼びかける。ちょっと声は震えているかもしれない。キスだけでも私にとってはかなりの出来事だったのに、未知の領域すぎる。待って欲しいと言おうと思っていたのだけど。
「……リリスちゃん」
その声色があまりにも懇願めいたものだったので。私は受け止めてやりたくなったのだ。




