“奴”と貴族
やぁ~! 平民の諸君~!
僕はポンズ王国の第四代目サクラダ子爵を務める貴族、そして騎士でもあるのカノー=サンジンジャ三九世さ~!
そして、崇高なる精鋭部隊ポンズ王国が誇る騎士団“AT05”の団長を務めている!
以前にも騎士団の事に関しては少し触れたが、今回もちょっと騎士団の事を話してみようと思うよ~!
実のところ、騎士は魔法も使えるのさ~。
そして騎士になる条件として、ポンズ王国の主教であるポンズ教の洗礼を受けている事が前提となっている。
洗礼を受けた後は、剣術や武術を学びながら魔術の勉強を受ける事となる。
魔術も一般的なものではなく、聖書に通じた特別な魔術を扱うのだよ!
要は“ただ”魔獣を用いて戦う騎兵団よりも、魔力を用いながら魔獣も操る騎士団は高貴であるという事だ!!
ハハハ~!! それでは、今日のところはこの辺にしておこう~!
それでは諸君、アディオスッ!!
~ポンズ王国軍騎士、第四代目サクラダ子爵カノー=サンジンジャ三九世大尉~
「なぁ、ハリガネ。あのカノーとか言う貴族は、何で“平民の”お前に話しかけてきたんだ? 」。
ミドルは後方でリアカーを押しながらハリガネにそう問いかけた。
「前に“クソ親父”がサクラダ卿の父親をぶん殴ったって話したろ? 」。
「え? あ、ああ...」。
「あの事件以来、さっき会ったその息子の“キザクソナルシスト”がその件を未だにネチネチ言ってきやがるんだよ。王国兵士として軍にいた時からずっっっっとな」。
「そもそも親父さん、何でサクラダ卿の父親に暴行したんだよ? 」。
ミドルがそう問いかけると、ハリガネは疲れた表情を浮かべて深い溜息をついた。
「すっっげぇ...くだらねぇ話だよ...。ある日の夜に、“奴”は貴族や有権者がお忍びで来店する会員制の高級クラブバーに行ったらしい。それで調子に乗ってべろんべろんになるまで飲んだ挙句、付き人兵士の制止を振り切って一人のクラブ嬢にちょっかい出したんだと...」。
「ほうほう、親父さんもなかなか派手に遊び回るって聞いてたしな~」。
「そしたら、その嬢がサクラダ卿の父から寵愛を受けていたらしいんだよ。そんで、その場に居合わせていた父サクラダ伯爵と口論になったその延長で“やっちゃった”らしい」。
「あ~あ」。
「身分的に格下の“奴”はそのまま罰金アンド階級降格処分。それまで昇進の機会があったのに、この件で全部白紙になっちまったんだと。そんでもってサクラダ伯爵も不倫した事をすっぱ抜かれて貴族院副議長辞任に追い込まれ、事実上左遷処分を受けたという事よ。まぁ、結局はお互い痛み分けで終わったっていう話なんだけどさ~! 」。
「あ~、そういう過去があったから息子であるサクラダ子爵が、お前に未だネチネチ言ってくるってわけか~」。
「まぁ、さっきネチネチと恨み節言ってきたみたいな事を俺が言ったけど...。実際のところは王国に仕えていた時に、その件をネタにしてあっちからダル絡みしてくることがちょいちょいあったっていう話よ。まぁ、その後に“奴”は凄まじい勢いで堕ちていくわけだし、あっちからしたら余計面白かったんじゃないか? ...と言っても、俺も結構他人事だけどなぁ~。だって自業自得だも~ん! 」。
「まぁ、意地の悪い貴族ではなさそうだな。プライドの高い保身にしか走らん性悪な政治家と違って」。
「正直、ウザいけどな~。...というか、騎士の連中“自体”がウザいけどな。俺からしてみれば」。
「はははっ!! 」。
ハリガネの言葉にミドルは思わず高笑いをした。
「そこまで笑う話でもないじゃんかよ~。...あっ! そうだっ! 」。
そんな他愛のない話をしていた時、ハリガネはある事に思い出した。
「最近、反乱軍やら賊人が潜伏してるって言ってたじゃん? 」。
「おお、さっきの特殊治安部隊もその話はしてたよな~」。
「ああ、実は前に...ん? 」。
ハリガネが何かを言いかけた時、目的地であるパブの周辺に人だかりができていた。
「何だ...? 」。
ハリガネは目を凝らして店内を覗くと、オーナーが一人の客と揉めている事に気がついた。
パブの店内はざわめきと口論で異様な雰囲気に包まれている。
「どうした? 喧嘩か? 」。
「分からん、ちょっと見てみよう。...ちょっ! ちょっと通して下さ~いっ! 」。
ハリガネはそう言って、ミドルと共にリアカーを牽きながら店内に入っていった。