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お金と友達は大切に


え?


お前、戦士なのにそういった感じの仕事は無いのかって?


いや、前まではあったんだよ。


でも、魔法を操る魔法使いとか、魔法陣や物体を魔術的に特殊召喚する魔術師が活躍する時代になってきて物理攻撃を主とする俺達がどんどん使われなくなってなぁ...。


今考えると、軍から除隊しなきゃよかったな...。




~フリーター、ハリガネ=ポップ~





「...チッ!! あのチンピラオーナーめっ!! 俺の仕事は店内の警備だろうがっ!! 都合の良いように利用しやがってっ!! それも人をチビチビって、気にしてることをっ!! そりゃあ、他の連中は一八〇くらいの武道家や剣術士だろうけどよぉ...。一六〇ちょいの俺だって武器を使えば...ブツブツ」。


ハリガネはオーナーから渡されたメモを眺めながらブツブツと愚痴をこぼしつつ、店を目指し街中を歩いていた。


「この仕事は今日限りで十分だな。警備で条件が合えば頑張って継続雇用してもらえるよう交渉しようかと思ったが...。駄目だ、オーナーがクソ過ぎる。さっさと金回収して退散だな」。


ハリガネは道具屋“オードリー”へと辿り着き、まじまじと店を見回した。


「しばらく見ないうちにまた改装したのか...。昔はバラックみたいな汚い小屋だったのに、今となっては三階建ての店舗ビルにまで成長したんか...。たまげたなぁ...」。


ハリガネは感心しながら店の中へ入った。


“オードリー”の店内は木製のフローリングと茶色の壁で落ち着く雰囲気が印象的であった。


「はぁ~、品揃えも随分と変わったんだな~」。


ハリガネはそう言いながら入口付近にあったフロア案内図を見た。


一階は食品や酒類,洗剤等の日用品、二階は傷薬等の医薬品や衛生用品、三階は衣類,工具用品,アウトドア用品と区別されていた。


「ふぁ~! 店の中も随分変わったし、結構お客さんも多いなぁ~! 旦那も出世したんだなぁ~! 」。


ハリガネが店内を見回しながら驚いていると...。


「いらっしゃ...あれ? ハリガネじゃんっ! どうしたんだよ? 」。


“オードリー”を親子共々店を切り盛りしている友人のミドルがハリガネの方へ歩み寄ってきた。


「いや、仕事頼まれててな。今日頼んだお酒を受け取りに...」。


「あ~! 今日オープンしたあのパブね! 結構数が多いから裏の方に置いてあるんだよ。ちょっと、ついてきてくれる? 」。


「了解~」。


ハリガネはミドルと共に店の裏側へ行く事にした。


「...っっ!? 」。


裏側に移動すると、ハリガネはその先にある光景を見て絶句した。


そこには瓶やら樽やらアルコール飲料が山積みされたリヤカーが配置されていたのであった。


リアカーで運ぶとはいえ、到底一人の力で牽引して運べる量とは思えない。


「...」。


今の状況を受け止めきれていないハリガネはあんぐりと口を開け、その場で呆然と立ち尽くした。


「お、おい...。こ、これ...全部?? 」。


「ああ、代金はもう受け取ってあるから」。


困惑しているハリガネを余所に、ミドルは何事も無い様子でそう淡々と答えた。


(クソォォッッ!!! あんのクソオーナーッッ!! マジで覚えてろよッッ!! )。


「ほい」。


「...え? 」。


怒りで歯を食いしばっているハリガネの横から、ミドルが缶コーヒーを差し出した。


「俺はちょっと休憩~。今日ずっと休憩出来なかったんだよなぁ~」。


ミドルはそう言うと近くに置いてある古びた樽に腰掛け、ライターで煙草に火をつけた。


「サンキュー、ようやく一息つけたわ...」。


ハリガネはミドルにそう答えて缶コーヒーに口をつけた。


「...で? どうよ? 新しいパブの仕事は」。


ミドルが煙草の煙を吐き出しながらそう問うと、ハリガネはばつ悪そうな表情を浮かべて即座に首を横に振った。


「...ダメだわ。オーナーがどう見ても“反社”にしか見えない。早いとこ今日の金だけ受け取って別の仕事探すわ。変な事に巻き込まれたら厄介だからな」。


「そりゃあ、残念だな。用心棒的な仕事って聞いてたから、戦士出身のお前的には合ってると思ってたんだがなぁ~」。


煙草をくゆらしながらそう言うミドルに、ハリガネは再び首を横に振った。


「俺の他にも結構体格の良い武道家出身の奴等が数人いたから、用心棒はそっちに任せてる感じだな~。俺は雑用ばっかだよ」。


「まぁ、オーナーも見てくれがそんな感じで案外普通の人かもしれないぞ? それに、この前も言ったけど自分のキャリアに固執しないで働き続けながら色々考えていった方が良いって。まず、金が無いと何もできないぞ? そこから剣術の教室とか可能性増えてくるんだから。まずは働かないとさぁ~」。


「...そうだな」。


神妙な面持ちのハリガネは飲み干した缶をゴミ箱に入れ、腕をグルグルと回しながら背伸びをした。


「う~ん! さて、そろそろ戻らないと説教食らうな」。


「うし、じゃあ行くか! 」。


「...え? 」。


ミドルがリヤカーの背後へ回った。


「この時間帯忙しいから配達の方が上手い具合にサボれそうなんだ。俺も手伝うから、この前のランチ代はこれでチャラにしてくれや! すっかり忘れてたわ~! すまんなぁ~! 」。


「...」。


ミドルの優しさに、ふと笑顔が零れるハリガネ。


「...ありがとよ。これでチャラにしたるわ~」。


「サンキュー! チャラになるんだったら、こんくらいお安い御用よっ! 」。


ミドルはニヤッと笑みを浮かべ、リアカーに積まれた品物が落下しないようシート掛けを始めた。


(やっぱり持つべきは友だな。そういや、戦場でも色々届けてもらってたっけな。いつか借りは返さないとな...)。


「ハリガネ~!! 動かしてもいいぞぉ~!! 」。


「よ~しっ!! 行くかぁ~!! 」。


ハリガネはミドルへの感謝を噛みしめながらハンドルを握り、リアカーを牽き始めた。




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