ブラック企業
私の事を覚えているかな?
最初の回で登場したけど、都市ユズポンで料理店“マーキュリー”を営んでいるマスターだよ。
名前はユキっていうから、勘違いされるけど男だよ。
この先、登場するかどうかは分からないけどよろしくねっ!
当店の“マーキュリー”は安くて早くて美味いが売りなんだ~。
話には出てこなかったけど、他にも配達役のゴダイっていう従業員がいるよ~。
今回は戦士のハリガネ君からしっかり代金を受け取れたけど、お父さんのハリボテさんは本当に鬼畜な人だったよ...。
基本的に羽振りが良くてすごいお世話になってはいたんだけど...。
ある時、大勢の部下や仲間を引き連れては酔っぱらって店内を滅茶苦茶にした時もあって...。
酷い時は店内で憲兵と決闘し始めたり...うぅっっ!!
そ、その分の請求が回収出来なかったから、今度ハリガネ君に請求しようかな...うううぅぅぅっっ!!
~料理店“マーキュリー”店主ユキ~
デイとの久々の再会から一日が経ち、日も沈んで夜になっていた。
戦士という身分に属するハリガネという男は悩めるアラサー求職者である。
今となっては戦争とほぼ無縁であるこのポンズ王国内では、ハリガネのような完全戦闘系の人間は王国兵士でない限り充分に生活していくことが難しい立場であった。
そんな境遇下にいるハリガネは、この王国で定職に就くことを目指すべく今はフリーターとして都市ユズポンのパブにいた。
勿論、そのパブでは客としてではなく、用心棒の仕事のために店内を巡回している最中であった。
パブは今日がオープンデーということもあり、多くの人々で賑わっていた。
店内は広く煌びやかな空間であり、奥では楽器隊に合わせてパフォーマンスを披露する踊り子が場を盛り上げていた。
客は酒を飲んで食事に舌鼓を打ち社交の場として楽しむパブは、今のハリガネにとってそういう場所ではない。
(...はぁ~、結構踊り子のレベルが高いな~。なんか若い子達ばっかだし、お客さん楽しそうだな~。俺も戦場から戻った時は、よく先輩達にパブとかスナックに連れて行ってもらって飯とか酒とか奢ってもらってたな...。あの時はみんな羽振りも良くて楽しかったな...。あぁ~あ、あの頃に戻りてぇ~!! )。
「おいッッ!! そこのチビッッ!! 」。
ハリガネが店内を歩いていた時、大柄な男に急に呼び止められた。
そのスキンヘッドの男は傷だらけの顔で眼光も鋭く、ハリガネを睨み付けたままこっちに来るよう促していた。
厳つい風貌といい、恰幅の良い黒スーツの装いといい...。
どっからどう見ても、完全に“そっち系の人間”にしか見えない。
「え? 俺っすか? 」。
ハリガネはそんな男に怯むことなく、自分の顔を指差して問いかけた。
「テメー以外のチビが他にいるかぁッッ!! テメー、手ぇ空いてるだろぉッッ!? 店に発注したぁ酒ぇ、取りに行ってこいやぁッッ!! 店がぁ人手不足でぇッッ!! 届けるの遅れるっつうからぁッッ!! そんな待てねぇからよぉッッ!! オメーが行けぇッッ!! この野郎ッッ!! 」。
男は厳つい顔をハリガネに近づけ、ドスの効いた声で命令した。
「え? でも良いんすか? お店を空けちゃ...」。
「良いっつってんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! オラァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! こちとらぁオープン初日でただでさえ人手が足りてねぇところ、お前みたいなちんちくりんを雇ってやってんだぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? コノヤロウォォォォォォオオオオオオオオオオッッッ!!! お前に店のセキュリティ役なんか期待してねぇんだからそれなりに店に貢献しろやぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!! タココラァァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
すっかり激高した様子の男は顔を真っ赤にし、ハリガネの胸ぐらを掴むとそのまま身体を大きく揺さぶり怒号を撒き散らした。
「す、すいません...っっ!! わ、分かりました...っっ!! (な、何だコイツっっ!? マジやべえ...)」。
「分かったらさっさと行ってこいッッ!! サボったらぶっ殺すからなぁッッ!? 」。
「は、はい...(マジうぜぇ...。コイツ...)」。
ハリガネは男の指示で発注品を受け取るため注文先の店に行く事となったが、奇遇なことにその店はハリガネがよく知る“あの店”であった。