082
――メディスンたちがボス·エンタープライズ社の前から移動し始めたとき。
三つ編みの少女――リズム·ライクブラックがキッチンの前に立っていた。
時間的に、リズムが第三班の班員たちが住んでいる一軒家で、皆の夕食を作っていところだ。
その傍には、オレンジ色の髪をしたツギハギだらけ顔をした少年――ディス·ローランドと、電気仕掛けの仔羊ニコが彼女を手伝っている。
「ニコもやるなぁ。どこで憶えたんだよ、その包丁さばき」
付け合わせのサラダを頼まれたディスとニコ。
慣れた手つきで野菜を切っていく電気羊を見て、ディスが驚いている。
その隣で、スープの味見をしていたリズムが微笑む。
「ニコはいつも手伝ってくれているだもん。そりゃ腕も上がるよ」
「そ、そうか。これは負けていられないなぁ。よーし俺だって……。イタッ!」
ニコに負けまいと野菜を素早く切ろうとしたディスは、慌てて指を切ってしまった。
血がダラダラと流れたが、リズムがすぐに彼の手を取り、水道水で物理的に雑菌を洗い流す。
そして、ニコが絆創膏を用意し、リズムがタオル濡れた指を拭いて圧迫していた箇所へと貼った。
「はぁ……ダメだな、俺……」
「最初から上手い人なんていないよ。野菜はニコに任せるから、ディスはテーブルに食器を並べて」
「はーい……」
ニコが、肩を落として食器を用意するディスに向かって鳴いている。
自分も最初はよく指を切ったものだよ、と慰めようとしていた。
ディスはそんなニコに礼を言うと、テーブルへ食器を運ぶ。
そのときに、部屋に人が入って来た。
金髪碧眼のロングヘアの少女――ディスたちと同じ第三班の班員であるパロマ·デューバーグだ。
パロマは冷蔵庫に入れておいたペットボトルの飲料水を取ると、その場からすぐに去って行く。
「ちょっと、どこ行くのパロマ?」
リズムはもうすぐ夕食ができるというのに、こんな時間から何をするつもりなのだと声をかけたが。
彼女の格好を見て気が付く。
「まさか、こんな時間からトレーニング?」
「あぁ、ちょっと走って来る。夕食はいらん。外で適当に済ます」
「そんなのダメだよパロマ! あなたいつもそういってパワーバーばっかりじゃない!」
「栄養バランスは考えている。何も問題はない」
「ちょっとパロマッ!」
リズムに止められたが、パロマは出て行ってしまった。
彼女が外へ出て行く音が聞こえると、続いて男の声が聞こえてくる。
「オレもいらねぇから」
同じく第三班の班員ムド·アトモスフィアの声だった。
リズムはムドにも声を張り上げたが、彼も外へと出て行ってしまった。
リズムがガクッと肩を落としいると、そこへ同じく班員である灰色髪の少女――シヴィル·エレクトロハーモニーが入って来る。
「うん? 何かあった?」
「まさかシヴィルもご飯いらないとか言わないよね?」
「シヴィルはお腹へってる。だから降りて来た」
その言葉を聞いたリズムはホッとすると、再びキッチンへ戻って料理を作り始めた。




