008
それからキッチンへと戻ったブラッド。
テーブルには、すでに班員たちの食器が並べられており、彼はリズムに言いづらそうに顔を向けた。
「なあ、リズム」
「ブラッドさんはライス大盛りでいいですよね?」
「いや、あのさ……」
ブラッドはリズムに、パロマとムドから今夜の食事はいらないと言われたことを伝えた。
リズムは少し残念そうにしていた。
だがすぐに笑みを戻してブラッドと自分、そして、まだ部屋でゲームをしているシヴィルの分の食事をよそう。
そして、二人はテーブルにつき、カレーを食べ始める。
「いただきます」
「いただきます」
二人は両手を合わせて言葉をそろえる。
スプーンにカレーを救って口へと運ぶ。
「うん! やっぱリズムのカレーは最高だな」
「よかった。おかわりたくさんありますから」
ブラッドはカレー頬張り、目の前にいる少女を見て思う。
二年前の戦争――血塗れ聖女と呼ばれていたときからリズムは何も変わっていない。
いや、むしろさらにメディアに付けられた二つ名――聖女へと近づいている。
そして、リズムは強くなった。
今は無き時の領地という里に伝わったという技術――。
現在では指名手配中のマスター·メイカ·オパールからその技を教わり、リズムは体内にある生命エネルギーを気を放つ技を使えるようになった。
格闘術も大人の自分ですら敵わないほどの力を付けた。
だが、彼女のような性根では、この先才能の追跡官としてやっていくのは難しいだろう。
そう思うのは、ブラッドもまたリズムと同じく連合国が創られたきっかけとなった勢力に属していたからだった。
尋問でのチルドへのリズムの態度は、あのときの戦争――重傷者へ向けていたものと代わりがない。
ブラッドは、昔から他人を必要以上に気遣う彼女のことを心配していた。
「それにしても……パロマもムドもシヴィルも、うちはどうも自分勝手なヤツが多いよなぁ」
「個性的ってことですよ。皆、自分の信念があってこの仕事をしてますから」
「言い方一つだなぁ……。リズムらしい……」
「でも、そんな個性的な班員たちでも、ブラッドさんのおかげでいざというときは纏っていますよ」
笑顔で言うリズムを見て、ブラッドは身を震わせる。
そして一気にカレーを食べ終えると、バッと椅子から立ち上がる。
「よしッ! あいつらにブラッド・オーガニックの本気を見せてやるッ! 食べ終わったら、シヴィルも呼んで外へ行くぞ、リズム!」
「えぇッ!? そんなッ!? これから一週間の食事の仕込みをしようと思ってのにッ!」
「そこは、たまには外食でもしようぜ。もちろん第三班のみんなでな」
「まあ、ブラッドさんが良いなら……。ちょっと待っててください。今すぐ食べちゃいます」
慌てて食べ出したリズムに、ブラッドが言う。
「ちゃんと噛んで食えよ」
「ブラッドさんに言われたくないです」