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アバロンはブラッドを見据えると、ブレードを下ろして構えを解いた。


ブラッドは不可解な顔をし、彼のことを見返す。


「前の戦争後……。ブラッド・オーガニック、それからメディスン、エヌエー三人……。奇しくも私が敵ながら敬意を持つ三人と相対するとは、これは何かの因果か……」


「そいつは光栄だね。でもな若造。それが戦争ってヤツだ」


バヨネット·スローターの銃口を向けるブラッドを見て、アバロンは歯を食い縛っていた。


前の戦争で、本国へと撤退したストリング軍は、連合国軍から凄まじい追撃を受けた。


なんとか民間人や非戦闘員、アンビエンス·ストリング王とイーキュー·ストリング王女を逃がすことに成功したものの――。


その業火のように燃え広がった連合国軍の攻撃にさらされ、ストリング軍は全滅する寸前まで追い詰められそうになる。


だが、ブラッドら先ほどアバロンがあげた三人に加え、数人の助言により、ストリング軍へ攻撃は中止。


その後、ストリング帝国は王国と名を変えても現在に至る。


「そのことだけではない。私は歴戦兵士たる三人の武勇を、幼少の頃から聞いていた」


「へッ、ただ運が良かっただけだよ。所詮俺らは無能力者だからな。大事なとこはいつも誰かに任せちまう」


「恥じる必要などどこにもない。あなた方は特別な力もないというのに、常に前線に出ていた。そして、今もこうして戦っている……。あなた方ならわかっているはずだ。今の連合国が、けして理想的なものではないと」


アバロンの発言にネアが口を挟もうとしたが、彼は手を出して制止。


そして、ブラッドに言葉を続ける。


「どうだろう、私たちと共に戦わないか? 世界から差別を減らし、平等とは言えぬまでもできる限りの理不尽や不条理を無くすために、連合国を倒そう。それこそあなた方を育てた偉大なる男――かつてたった一人で反帝国組織(バイオナンバー)を創ったバイオの意志に沿うものだと思うが」


こんな状況で、アバロンはブラッドを仲間に引き入れようとしていた。


仲間であるネアの驚く表情を見るに、これは彼の独断だろう。


リズムもパロマも、アバロンの突然に行動に驚愕していた。


アバロンは言葉をさらに続ける。


「もちろんあなたとメディスン、エヌエーだけではない。才能の追跡官(アビリティトレーサー)のメンバー全員だ。共に連合国を倒そう。望まぬ戦いを強いられる少年少女を救い、共に世界を変えるのだ」


黙って話を聞いていたブラッドは、乾いた笑みを浮かべると、ようやく口を開く。


「たしかに、連合国のやり方にはついていけねぇこともある」


「ならば、我々と……」


「だがなッ!」


ブラッドは、アバロンの言葉を遮って続けた。


完璧ではないにしても、今の世界には秩序がある。


自分たちが幼い頃には、けして考えられはしなかったことだと。


「これまで、命を張って世界を良くしようとしてきた奴らの想いがこの秩序だ。お前の言う通り、連合国の上には腐ってる連中は多いよ。だがそれでも、ようやく手に入れた……死んでいった奴らが築き上げた平和なんだ! それをお前たちが壊そうしているなら、俺は、俺たちはお前らの仲間には絶対にならねぇッ!」


「それこそ想いを無にしていると何故わからないッ!? このままいけば、連合の腐敗はあなたが考える以上に続くぞッ!」


「そいつを止めるのも俺たちの役目だ。内側からじゃなきゃできないことって、結構多いんだぜ。お前たちこそ、連合国との戦い方を見直すべきだ。それなら協力してやる」


ブラッドの固い意志を理解したアバロンは、俯くと再び光剣――ピックアップ·ブレードを構える。


「残念だ……。あなたなら我々の大義を理解してもらえると思ったのだが……。本当に残念だ」


「すでに終わった帝国を担ぎ上げて、また戦争を起こそうとしているお前に大義なんてものがあるはずねぇだろう。また同じことを言うぜ。戦い方を見直せ! アバロン·ゼマティスッ!」


「……ここからは言葉ではなく剣で語ろう。ストリング帝国軍少佐――アバロン·ゼマティス、参る!」

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