055
ネアは、自分の前髪の長いピクシーカットを弄りながら、ブラッドにニッコリと微笑んだ。
ブラッドはそんな彼女を見て顔を笑みを返す。
「何も言わねぇなら、イエスと取るぜ」
「あらあら、さすが歴戦の兵士ブラッドさんね。パロマちゃんと違って、強引でも多少の駆け引きは心得ているみたい」
「こういうときってのは、大体答えられないことが答えになってんだよ。それとな、あんまりウチのもんをからかうんじゃねぇ」
ブラッドは会話をしながらも考える。
すでに、三階フロアにいたデカダンス·レイヴァーたちは、ほぼ無力化している。
いくらネアがマシーナリーウイルスの力を使おうとも、こちらは特殊能力者が五人と電気仕掛けの仔羊一匹に、自分がいる。
こんな不利な状態で何故彼女は姿を現したのか。
何か策を秘めているはずだ。
――と、ブラッドは、けして態度には見せずに、会話を続けようとしていた。
「ま、何を考えているか知らねぇが、お前はここで捕まえるぜ」
「そう上手くいくかしら? こう見えても私、結構強いわよ」
「たった一人で息巻いてんじゃねぇよ。それとも後ろの奴、エレベーターにいる奴がどうにかしてくれるのか?」
「それが見たいなら、ご期待に添えましょうか。メガディ、ご指名みたいよ」
ネアに応えるように、エレベーターの中にいた人物が出てくる。
赤い色のモヒカン刈りの少年。
年齢はその幼さが残る顔からして、ネアよりは少し年下――第三班の面々と同じくらいの歳に見えた。
「ネ、ネアさん……。ボクに振らないでくださいよ」
メガディと呼ばれたモヒカンの少年は、見るからに怯えながら返事をした。
その強面な髪型からは想像ができないほどである。
「いいから早く来なさい。この人たちったら、あなたのことが気になってしょうがないみたいなんだからさ」
メガディは、物凄く嫌そうな顔をしながらネアの隣まで歩いてきた。
震える足をなんとか動かしている――そんな風に見える。
演技とは思えない。
第三班の誰もがそう思っていたが。
やはりそのモヒカンと怯える態度のアンバランスさに、妙な違和感を覚えていた。
「紹介するわ。この子の名前はMD-2――メガディ·ローランドよ。ちょっと怖がりだけど、仲良くしてあげてね」
「ローランドだと?」
ブラッドが思わず声を出した。
それは、ストリング王国出身であり、ディス、ブルドラと同じく女科学者ドクター·ジェーシー·ローランドの姓だったからだ。
そうなると、目の前にいる赤色のモヒカン頭の少年も、ドクター·ジェーシーの被験体だったということか。
ブラッドだけでなく、第三班の面々もその表情を強張らせる。
「それじゃ紹介も終わったことだし、早速始めましょうか。さあ、やりなさいメガディ」