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ブラッドのかけ声と共に全員がバヨネット·スローターを構える。
その中でパロマだけは高周波ブレードの軍刀――夕華丸を握り前へと出ると、シヴィルも彼女の隣に並ぶ。
第三班の前衛はパロマとシヴィル。
そしてブラッド、ムドが遊撃として続き、後衛は気を使って傷を癒すことのできるリズムと、治療キットを持つニコだ。
背後からの奇襲を受けた場合も、リズムの技ならば気の壁で防げる。
これが第三班の陣形である。
「え~とブラッド班長。俺はどうすれば?」
「ディスはリズムとニコの指示に従ってくれ」
指示通りにリズムの隣へと動いたディスを見てパロマは思う。
たかが階段を駆け上がったくらいで呼吸が乱れている。
どんな特殊能力を持っているのかは知らないが、やはり身体能力は常人に毛が生えた程度だろう。
(こんなのが使えるのか?)
視線を後ろへと向けていたパロマにシヴィルが言う。
「パロマ、よそ見はダメ」
「あぁ、悪い」
そして、パロマが前を向くと廊下の奥からサイバーゴスの格好した集団が歩いて来るのが見えた。
全員やはり上下ともに真っ黒で、ワンポイントで蛍光色が取り入れられている。
一階に現れたデカダンス·レイヴァーだ。
皆が同じような恍惚の表情で向かってくる。
「出やがったな幸せゾンビどもッ!」
「正確には、電子ドラッグ中毒のデカダンス·レイヴァーだ。早速他人の発言を盗むな」
ムドが叫ぶように言うと、パロマが釘を刺した。
二人のやり取りを聞いていたシヴィルは、肩を揺らしてクククと笑っている。
ブラッドが向かってくるデカダンス·レイヴァーたちへ言う。
「俺たちは才能の追跡官だ。こんなところで何をしてる?」
返事はない。
デカダンス·レイヴァーたちは恍惚の表情でゆっくりとブラッドたちのほうへ歩いてくるだけだ。
「ダメだ、話が通じねぇ。こいつらは重度のヤク中だな」
その言葉を聞き、第三班の全員が身構える。
デカダンス·レイヴァーたちは、バヨネット·スローターの銃口を向けられても、怯むことなく向かってくる。
「電子ドラッグをキメてるとなると、電磁波じゃ無力化できないと思う。そういう場合はわかってんな、お前ら?」
「大丈夫、武力による生け捕りでしょ?」
「あぁ、殺さなきゃ何してもいい。後の責任は俺が持つ」
ブラッドがシヴィルの返事に答えると、前衛にいたパロマが飛び出していく。
軍刀――夕華丸のスイッチを切って、前にいたデカダンス·レイヴァーを叩き伏せる。
彼女を援護しようと、ブラッドとムドが電磁波を発射。
前へと出たパロマを襲おうとしていた数人に当てるが、少し怯むだけでその動きは止まらない。
「チッ、やっぱりか。パロマッ! 気を付けろッ!」
ブラッドが叫ぶ。
彼の予想通り、敵はドラッグに使用しているため、出力の弱い電磁波では倒れなかった。
「装甲」
パロマを守ろうとシヴィルが飛び込む。
灰色髪の幼女が呟くと、彼女の腕に白い鎧甲冑のような装甲が覆っていく。
マシーナリーウイルスによる機械化――装甲だ。
シヴィルはパロマを襲おうとしていた敵を、その機械の拳で吹き飛ばす。
パロマも負けじと、軍刀を振って敵を廊下の壁へと叩きつけた。
「私のフォローいらんぞ、シヴィル」
「知ってる。パロマは強い。けど、心配は消えない」
「ならそんな心配、私の力で消し去ってやる。装甲ッ!」
そして、パロマも腕を機械化。
装甲による身体能力の向上で、次から次へとデカダンス·レイヴァーたちをなぎ倒したいく。
「あれがソウルミューさんが言ってたマシーナリーウイルスの力か。いや~スゴいね」
「感心している場合じゃないよ。ここはもう敵の本拠地なんだから。油断せずに周りを警戒して」
お客さん気分の発言をしたディスを、リズムは注意した。
ニコも彼女と一緒になって「そうだよ! 気を付けなきゃダメッ!」と、強く鳴いていた。
ディスはリズムとニコに頭を下げると、廊下を進んでいく仲間の後を追いかけていく。
リズムは呆れながらも考えていた。
(ディスの力が才能の追跡官に必要ならしょうがない。ひ弱なこの子のことはアタシが守らなきゃッ!)
そして、グッとバヨネット·スローターを握り、ディスの隣を走るのだった。




