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004

――パロマが医務室に入った頃。


捕らえたチルドの尋問を始めていたブラッドは、椅子に寄りかからずに前に俯く彼に手を焼いていた。


チルドは何度声をかけようが返事がなく、何を言っているかわからないくらいの小さな声で、ブツブツささやいているだけだったからだ。


机を挟んで座っているブラッドはその坊主頭を掻きながらぼやく。


「何も言いたくないってことかよ」


困った顔をしている上司の後ろに立っていたリズムは、チルドに声をかける。


「あなたにだって家族はいるんでしょ? こんなことを続けていたら その人たちが悲しみますよ」


情に訴えたリズムに、ブラッドはさらに困った顔をしていた。


そもそも彼らが派遣されたアンプリファイア・シティは、犯罪者や他の国にいられなくなった者たちが集まってできた街だ。


おそらくだが、このチルドという黄色頭のサイバーゴスの若者は、そういうタイプの人間だろう。


そんな者に対し、情に訴えてもあまり効果はない。


だからやらずにいたんだがと、チルドに詰め寄った部下へと目をやる。


「あぁ、お前……知ってるぞ」


俯いていたチルドが顔をあげた。


これまでずっと黙っていた彼は、リズムの顔を見てその表情を歪めている。


リズムは何故彼がそんな顔をしているのかも、何故自分のことを知っているのかもわからないでいた。


「二年前の戦争の英雄……ソウルミューの妹だ。血塗れの聖女……リズム·ライクブラックだッ!」


チルドは突然声を張り上げた。


そして、彼の言う通り――。


リズムは今から二年前に起きた戦争で活躍したソウルミュー·ライクブラックの妹だ。


彼女が血塗れの聖女と呼ばれているのは――。


その戦争で、連合国ができるきっかけを作った勢力の衛生班として、凄惨な現場を血で真っ赤に染まりながらも穏やかな笑みを絶やさなかったことに由来する。


当時のリズムは十二歳。


幼いながらも前線で重傷者らを励ます彼女のことを知り、世界中の人間が称賛したことで、先に出た二つ名が付けられた。


戸惑うリズムにチルドは乱暴な言葉を続ける。


「なんでお前がこんなクソみてぇな街にいんだよッ!」


「アタシがこの街にいる理由なんでどうでもいいでしょ」


だが、リズムは怯まなかった。


椅子に拘束されているとはいえ、顔を突きつけて来たチルドから逃げずに訊ね返す。


「それよりもどうしてドラックなんか売っているの?」


「リズム、ちょっと下がって……」


二人の様子を見ていたブラッドは、リズムに下がるように言おうとした。


だが、ようやく何か聞けるかもしれないと口を閉じる。


ブラッドが自分を止めようとしたことを感じながらも、リズムは訊ね続ける。


「なんでそんなことをするの?」


リズムの質問にチルドが再び俯く。


次第に彼の目から毒が浸み出すように目つきが変わっていく。


その顔は満面の笑み。


「聖女様にはわかんねぇだろうな。こんなクソみてぇな街に住むしかないヤツのことなんかよぉ」


顔を上げて歯を剥き出しにし、またリズムに近づく。


「大した意味なんかねぇよッ! ただ世界に見捨てられたヤツが生きてくためだろうがッ!」


そう叫んだ黄色頭の男の黒い目には、絶望の色があった。

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