039
ヴォックス·エリアへと到着したパロマたちは、目的地であるカルトの実家へと向かう。
初めて来た地区ではあったが、事前にマップを頭に入れていたムドの案内で問題なく進んでいく。
その街並みはマーシャル·エリアと同じく、配線が張り巡らされ、石畳の道にレンガ造りの建物が多い。
違いといえば、街の壁の至るところにタギング(スプレーペンキで描かれた落書きの一種)が見られることだ。
そして、女性の姿はほとんどなく、見るからに治安が悪いことがわかる。
「ムド、カルトの実家について教えてくれ」
歩きながら訊ねたパロマに、並んでいたムドが答えた。
彼の調べによると、貧困者が多いアンプリファイア・シティの中で、カルトの両親は裕福なほうのようだ。
「父親はエンジニアで母親も同じ職場みたいだ。まあ、職場恋愛ってヤツだろ? いいよなぁ~」
何故か嬉しそうにしているムド。
パロマにはどうしてだかはわからないし、気にも留めない。
「ムドは自分とパロマで妄想してる。シヴィルにはわかる」
二人の後ろを歩いていたシヴィルがポツリと言うと、ムドが顔を真っ赤にして慌て始めた。
「おいシヴィルッ! なにを言い出すんだよッ!?」
「その態度が答えになってる。というかバレバレ」
二人がそんなやり取りをしているを見て、パロマは思う。
職場恋愛など――いや、そもそも恋など今の自分には不要だと。
パロマはムドの自分に対する好意には気が付いていた。
それをわかっていながら、彼女は自分の都合よく利用している。
(少し意識させるだけでこれだ……。こいつには女性経験がろくにないのだろうな。本当におめでたい男だ)
内心で嘲笑と軽蔑をする。
大体命懸けの仕事をしながら、どうしてそんな浮わつけるのだ。
弟ために才能の追跡官になったのではないのか。
そんな立場でいながら色恋沙汰に気を取られるなど、やはり軽薄な男。
パロマがムドを見下している理由は、彼の思春期には誰にでも訪れる恋心のせいだった。
「おい、ムド。そろそろ到着するんじゃないか。この辺だろう」
「あぁッこの辺この辺ッ! もう見えてるぜッ!」
そんな、思わず声がうわずってしまったムドを見て、シヴィルが笑みを浮かべていた。
そして、彼の指差す場所にはかなり年季の入った一軒家が見える。
その家はかなり古くは見えるものの、外装もは庭も手入れされ、大事にされているのがわかるものだった。
だが、どうしてだか。
カルトと実家の扉は開いていた。
出入り口付近に人の気配はない。
ならば何故――。
パロマとムド二人が同じことを考えていると、シヴィルが言う。
「シヴィルたちが来る前に、誰か来てるみたい」
「なんだと?」
パロマとムドはシヴィルのほうを見てから、もう一度扉へほうへと視線を戻す。
適当なことを言っている可能性もあるが、シヴィルの勘はよく当たるのだ。
「どうするパロマ? シヴィルの勘じゃ先約がいんだろ? 敵の可能性は高いぜ」
「ここまで来たんだ。中へ入るに決まっているだろう」




