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ディスは家を出ると、人目につかないように掘っ立て小屋に身を隠しながら移動していた。
手には大きな荷物を持ち、少女一人がすっぽりと入ってしまう木箱を背負った姿はかなり目立つ。
さらにディスのオレンジ髪色と、そのツギハギだらけの顔は、人違いだと言い訳できないほど特徴的だ。
誰かに見つかれば必ず声をかけられる。
どうしてそんな大荷物を持っているのだと勘繰られる。
完全に人目を避けることは無理でも、声をかけれて立ち止まっているときに、ベクトルの軍人を呼ばれなければなんとかなる。
ディスは周囲を警戒しながら、ゆっくりと村の外を目指していた。
幸いなことに、外に出ている住民はおらず、おそらくは人目につくことなく村の外れまで来られた。
問題は、村を出た後にどうすればいいかだが――。
「おい、そこお前。どこへ行くつもりだ?」
突然ディスの前にベクトルの軍人たちが現れた。
人数は三人。
リーダーの男を先頭に、その後ろには銃器を持った二人がディスを取り囲むように歩いて来ている。
たしかが小隊の数は四、五人はいたはずだが。
考えられるに残りは村にいるのか、それとも電波がなく本国に連絡が取れないため、直接救援を呼びに行ったのかもしれない。
ディスはゴクッと生唾を飲み込むと、笑みを浮かべて返事をする。
「すみません。ちょっと廃材を村の外から回収して来たんです」
バックには村の周辺にある建物を解体するための道具と、背負っている木箱には入手した廃材が入っている。
自分は今さっき作業を終えて村に戻ってきたところだ。
――と、ディスは事前に考えていた言い訳を口にした。
だが、あまり効果がなかったのか。
リーダーの男は明らかに疑った表情で近づいて来る。
「ほう。ついさっき集められていたというに、すぐにでも仕事に出たのか。ずいぶんと熱心なことだな」
「ハハハ、そんなことないですよ」
「では、その廃材を見せてもらっていいか? 疑っているわけではないが。こんなものが私たちのところに届いたのでな」
ディスにそう言ったリーダーの男は、そっとポケットから一枚の紙を出した。
目の前にいるディスによく見えるように、そっとその紙を突き出す。
「こ、これは……」
その紙に書かれていたことを見て、ディスは驚愕した。
そこには、オレンジの髪色したツギハギだらけの顔の少年は、才能の追跡官のディス·ローランドであると記載されていたのだ。
さらに、ディスがリズムを家に隠していることも書かれている。
ディスは表情にこそ出していなかったが、内心の動揺は隠しきれなかった。
「私もこの紙に書かれていることを、全面的に信用しているわけではないが。こういう怪しい情報でも、一応調べておくべきだと思わんか?」
リーダーの男がそう言うと、左右から向かって来ていた兵二人がディスの背負っている木箱に手を伸ばした。
「さあ、見せてもらおう。それでこの紙に書かれていることが、本当なのかとわかるというものだ」




