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ディスは家に戻ると、いつものように布団で横になっているリズムのに声をかけた。
それから炊事場へと行き、桶に入れておいた魚を取り出す。
これから昼食の用意をしようとしてるのだ。
「パンや米がないのはちょっと寂しいけど、そのうちこの村でも田んぼを作ったりして……そうだ! パン粉を手に入れてこの村でパン屋さんをやろうか」
火をおこし、魚の頭を手前にして口から串を入れたら、背骨の左の身からW字型に串を刺す。
串は皮一枚でひねり、魚から出さないのがリズムの兄であるソウルミューに教えてもらったやり方だ。
次々と魚に串を刺しながら、ディスは返事のないリズムに話し続ける。
「あ、でもパン屋さんよりもレストランのほうのがいいかな。リズムの料理はプロ以上だからね。皿洗いやウエイターは俺が……って、こんな顔じゃダメか。お客さんが怖がっちゃうよね」
自分のツギハギだらけの顔を掻きながら自嘲するディス。
今思いついたような言い方をしているが。
それは、ディスが以前に考えていた夢だった。
小さいながらもそこそこ評判になるレストラン。
リズムが料理を作り、電気仕掛けの仔羊ニコが接客。
自分は店の経営のほうに力を入れ、その他に材料の手配や皿洗い、店内の掃除などをやる。
酒に詳しいソウルミューには、新メニューのアドバイザーなどを頼めばいい。
それが、ディスがずっと思い描いていたリズムとその家族との暮らしだった。
だが、リズムは才能の追跡官となり、電気回路で発達した犯罪都市――アンプリファイア・シティへと行ってしまった。
彼女を守るべく、ディスはソウルミューにお願いして戦い方を学んだ。
自分が持つ特殊な力――ブレインズの能力無しでも戦えるように鍛えてもらった。
ディスが学びたいことの師には、二年前の戦争で様々な特殊能力者との戦い、ただの人間でありながら生き残ったソウルミューが打ってつけだった人選だった。
そして、ソウルミューの戦争での功績もあってディスはリズムのいるアンプリファイア・シティに配属――彼女と同じ才能の追跡官となる。
ソウルミューと別れるとき、師は彼にこう言った。
「なぁ、ディス。お前には戦いなんて向いてねぇよ」
そのときのソウルミューの顔が脳裏をよぎる。
そうだ。
そうなのだ。
自分に戦いの才能などない。
才能の追跡官になれたのだってソウルミューの口添えと、自分がドクター·ジェーシーの改造人間だったからだ。
だが、もう戦う理由はない。
自分はこの村でリズムと静かに暮らすのだ。
ディスはそう思いながら魚を焦がしてく火を見つめると、フッと俯く。
「いつかはやりたいな……。リズムと一緒に……」




