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石畳の道を歩き、レンガ造りの建物を抜けて駅へと辿り着く。
アンプリファイア・シティを走る鉄道はすべて地下鉄だ。
そして、基本的に乗車は無料。
ボス·エンタープライズが運営しているのだが、どうやって収益を得ているのかは公表されていない。
電車に乗り込む前に、パロマの指示で指輪タイプの通信機器の電源を切る。
ブラッドやリズムにどこへ向かうを知られないためだ。
これは、自動運転車を使わずに歩き、捜査に便利な警備ドローンを連れて行かない理由と同じだった。
才能の追跡官の権限を使えば使用歴が残る。
パロマたちがしようとしているのは、あくまで自分たちだけで手柄を立てることだ。
そのため、できることは制限される。
だが、それでこそ功績が認められると、パロマは信じて疑わない。
乗客がまだらな電車内で、パロマはこれから向かう場所の確認を行っていた。
「カルトの実家はヴォックス・エリアだったな」
アンプリファイア・シティには、主に以下の四つの区域に分けられている。
マーシャル・エリアには軍警察本部があり、他にもハイワット・エリア、港があるオレンジ・エリア、そしてこれから向かうヴォックス・エリアだ。
「あぁ、問題はマーシャル·エリア以外は無線が届かねぇことだ。それに加えて、あそこは赤い開拓者のナワバリだからな。結構メンドーなことになりそうだ」
ムドがパロマに返事をした。
彼の言った通り――。
ヴォックス·エリアは、ヴィラージュの率いる赤い燕尾服のマフィア――赤い開拓者が仕切っている区域だ。
つい先ほどあった軍警察署への訪問もあり、ムドは不安で顔をしかめる。
「大した問題はないだろう。私たちの目的はあくまで調査だ。運が良ければカルトがいる可能性もある」
「そうは言ってもよぉ。相手はあのヴィラージュだぞ?」
ヴィラージュは、身長は百三十センチあるかないかの幼女だが、腕っぷしだけでヴォックス·エリアをまとめ上げた特殊能力者だ。
ヴィラージュもまたムドと同じく、前の世代の負の遺産――テストチルドレン出身だが。
ムドとは違い、被験体として過ごしていた研究施設にいた人間たちを皆殺しにして脱走したという記録が残っている。
シヴィルにも同じことが言えるが、たとえ見た目は幼女でもけして油断できない相手なのだ。
「いざというときはシヴィルがいる。それに、お前なら私たちを守ってくれるだろう、ムド?」
「お、おぉッ! 任せとけよッ!」
本当に単純で助かる――。
パロマは内心でムドを小馬鹿にしていた。
だが、ムドはそんなことも知らずに、照れながらやる気になっていた。
シヴィルがそんな二人を見上げながら言う。
「もう着く」




