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ジェーシーはチッと舌打ちをすると、パロマの愛刀――夕華丸の柄をギュッと握る。
「仲間だの絆だのそんなもの、私のローズ様への想いに比べたら雪と墨だわ」
「当然墨はお前だな。ドス黒さがにじみ出ているお前にはお似合いだ」
「これがこの街での最後の戦い……。決着をつけてやるぞ、ドクター·ジェーシーッ!」
パロマが揚げ足を取るように口を開くと、ブルドラが声を張り上げた。
それと同時に、二人が前後からジェーシーへと襲い掛かる。
ジェーシーは高周波ブレードの日本刀を振り、二人の攻撃を捌く。
パロマの右腕を覆う機械装甲は弾いて火花を散らし、飛び込んでくるブルドラを蹴りで牽制する。
ジェーシーの所作は、まるでプログラムされたコンピューターのように効率化されているかのようだった。
その速度は、最初に二人が対峙したときよりも一層増している。
狭いフロアの廊下で僅かな無駄もなく軽やかに舞い、パロマとブルドラが次に何をして来るのかが見えているような動きだ。
それもそのはず。
ジェーシーは今、自分が造り出した最高のブレインズ――DA-2(アダプティブ·ディストーション)の身体だ。
脳髄を歪ませてることで、自身の身体能力を限界まで引き出すことのできるのがブレインズ能力。
さらに、相手の動きを最速で脳が演算できるため、数秒後に何をして来るかを把握できるのだ。
当然ブルドラも能力を発動させている。
スイッチング·ブーストで脳を歪ませた彼女もまた相手の動きを演算できる。
しかし、ジェーシーはその計算を上回る。
それは、ジェーシーの持つ身体がブルドラのような人間の脳ではなく、人工知能によって負担なく演算できるためだ。
脳が歪むたびに痛みを感じるブルドラと、リスクなしで能力を使用できるジェーシーでは、僅かながらも計算速度に差が出てしまう。
だが、それがどうしたと言わんばかりに彼女は向かっていく。
それはパロマも同じだ。
二人が持つ才能の追跡官――仲間たちへの想い。
それを抱えてジェーシーと戦っている。
すべてが思い通りなるはずなどない。
実際にジェーシーはイーストウッドに裏切られ、リズムが奇跡を起こさねばこの街と一緒に消し飛んでいたはずだ。
人間の感情や想いは、誰にも操作はできない。
たとえ、完璧な脳手術を施そうとも。
「うおぉぉぉッ!」
「やあぁぁぁッ!」
パロマとブルドラの速度が上がっていく。
満身創痍の身体で自分の命を燃やすように、二人の攻撃が激しさを増していく。
「小賢しい……小賢しいのよ、この小娘らがぁぁぁッ!」
だが、その決死の攻撃もジェーシーの身体には届かなかった。




