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一人残されたディスは弱々しく呟く。
「リズムを守るため……」
彼の目には世界の色が失われていた。
瞳に映る光景は、すべてが白黒に見えていた。
それは、ブレインズとして能力を酷使し続けたことの結果である。
脳を歪ませ続けたことで、ディスは色を識別する機能を失った。
だが、彼にはまだ自我がある。
これまで耐えられないほどの苦痛を脳に与え続けていたというのに、ディスはまだ我を失っていなかった。
何故彼は。脳を酷使し続けても自我を保っていられたのか。
それは、ジェーシーの予想ではリズムの力によるもの。
ディスは守ろうとした者に守られていたのだ。
思い当たることはあった。
リズムはディスが戦うことに否定的だった。
しかし、彼女はディスの意思を尊重し、彼のことを見守っていた。
ディスは身体を起こす。
ダラダラと視界を覆う血を見ても、もう以前のような性的興奮は覚えない。
「俺の想いがその程度だって……そんなわけあるか……。俺は……彼女のためにこの街に来たんだッ!」
パロマの叱咤とブルドラの激励で、再び自分のやるべきことを思い出したディス。
立ち上がり、そのツギハギだらけの顔を覆っている血を拭って、自分に向かって宣言するように口を開く。
「俺がリズムに負担をかけているなら、もうしなければいいんだ。何よりもここで動かなきゃ……それこそ意味がないッ!」
声を張り上げて考える。
謝ろう。
リズムが目を覚ましたら、まずはごめんなさいと言おう。
今までのこと――。
自分がしてきたリズムを守るためにしてきた悪行もすべて告白して。
そして、彼女に――リズム·ライクブラックに裁いてもらう。
罪悪感を覚えるなんて自分には贅沢だ。
自分のすべてはリズムに委ねる。
リズムは自分を許してくれるだろうか。
いや、考えるまでもない。
彼女は本物の聖女なのだ。
きっと罪を償うために生きてくれと言うに決まっている。
なら、自分のやることは変わらない。
これまでと違うやり方で、彼女の傍にいるだけだ。
「リズムが望むなら俺は罪人として生きよう。もし彼女が許せないと言うのなら、その場で頭をかち割って死ねばいいだけだ」
そう考えたディスにもう迷いはない。
パロマやブルドラがそうなように。
たとえ敵わなくとも、必ずジェーシーからリズムを守る。
彼女を守る。
そのために自分は、この街――アンプリファイア・シティへ来たのだ。
そしてディスは、覚束ない足取りでリズムのもとへ向かった。
彼女を守るため――。
彼女に自分の罪を裁いてもらうために。




