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ディスは絶叫した。
目の前のいる脅威を忘れ、声が枯れても声を張り続けた。
彼にも思い当たることがあったのだ。
自分がリズムのおかげでこれまで戦えていたことが。
ディスはブレインズとしては未完成である。
他の改造人間が、ジェーシーの技術が確立してから手術を施されたのとは違って、彼は第一号――。
能力による脳の歪みが不安定なのだ。
他のブレインズたちが安定したブースト――脳の覚醒ができるとして、ディスの場合は能力発動の負担が大きい。
それを今まで、それこそ脳を酷使し続けてもまだ彼がまともにいられていたのは、リズムの気による奇跡のよるものだと思われる。
だが、ディスは信じたくなかった。
能力の発動を続けていくうちに、世界から色が失われるなどの後遺症は出始めていたが。
それでもリズムへの想いが、自我を保てている理由だと思い込んでいたのだ。
リズムの気を操る能力は、彼女の生命エネルギーを体内から放出している。
見ないようにしていた結果が、まさかリズムの命を削っていたとは。
ディスは母親が目の前で犯されながら殺されたときよりも――。
開頭され、意識がある状態で脳を弄られたときよりも――。
自分がリズムの生命エネルギーを削っていたということに絶望する。
「脆い、脆過ぎるわね」
ジェーシーは、もはやのた打ち回ることも止め、ただ虚空を眺めて呻いているディスを見て呟いた。
これまでの――。
能力の発動で味わった苦痛などよりも、ディスにとってはリズムの負担になっていたことが堪えただろう。
しかし、たとえそうだったとしても――。
敵を目の前にして戦意喪失、精神崩壊寸前になるとは、あまりにも情けない。
「あなたが私に似ていると思ったのは、どうやら勘違いだったみたいね。私ならこうはならない……。ローズ様にとって私が負担をかけていた存在だと知っても、こんな無様な真似は絶対にしない」
ジェーシーは、仰向けになっているディスを見下ろすと、その場を後にした。
もう止めを刺す必要もないと思ったのだろう。
壊れた玩具に興味を失った子供がそうなように、彼女はディスもパロマもブルドラも放って廊下を歩き出す。
三人共、怪我の具合から見て放っておけばそのうち死ぬと思ったのだろうか。
いや、ジェーシーは自分の新しい身体――。
DA-2(アダプティブ·ディストーション)の強さを実感したのだ。
もはや彼らが再び立ち上がろうが、自分に勝つことはできないと。
「さてと、この街を出る前に、血塗れの聖女から残りの気を回収しておこうかしらねぇ」




