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電子回路のようなライン状の光が全身を巡り、両目を赤く輝かせたブルドラは、身体を拘束していた金属の触手を引き千切る。
それは、ブレインズの能力――スイッチング·ブーストが発動した状態だった。
スイッチング·ブーストとは――。
利き足の踏みつけを合図とし、特殊な電波を脳内に巡らせる。さらにそこから脳髄を歪ませてることで、自身の身体能力を限界まで引き出すことのできる力だ。
さらに、相手の動きを最速で脳が演算できるため、数秒後に何をして来るかを把握できる力。
発動時には、電子回路のような光が全身を巡り、両目が赤く光る。
「これは、まさかッ!? さっきあの子がやったのはッ!?」
ジェーシーはラウドがブルドラに何をしたのかに気が付く。
ラウドの能力は幻覚波動。
彼の視線に交じる特殊な波動で、目を合わせた者に幻覚を見せる力だ。
ラウドは自身の能力を使って幻覚を見せ、ブルドラが使用できなかったスイッチング·ブーストが発動させたのだ。
利き足を踏み込むことなく、能力の発動合図を疑似体験させたことによって、ブルドラはその力を開花させた。
拘束を解いたブルドラの表情が、脳を歪ませた痛みで激しく歪む。
「ラウド……。痛い、痛いけど……」
ブルドラは抱いたラウドの身体を床に寝かせると、苦痛で歪んだ顔で笑みを浮かべた。
彼女は彼のしたことを理解したのだろう。
その表情は、初めてラウドに抱かれた感覚――性交に近かった。
「あなたのおかげで……ジェーシーを倒せるッ!」
そして、咆哮したブルドラはジェーシーのほうを見た。
その赤い瞳に睨まれたジェーシーは、これは不味いと狼狽えている。
「くッ!? まさか能力を発動させるなんてッ!」
ジェーシーは、身体から生えている金属の刃を、向かって来るブルドラへと放った。
無数の刃――触手が再びブルドラを捕らえようと襲い掛かるが、彼女はそれらの攻撃を躱して向かって来る。
だが、ブルドラを捕らえることはできない。
彼女には刃の軌道が見えている。
相手の動きを最速で脳が演算できる今のブルドラには、触手の動きが把握できる。
「これは不味い、不味いわッ!」
「やぁぁぁッ!!」
ブルドラの拳が、その叫びと共にジェーシーの顔面を叩き込まれた。
その威力は凄まじく、人工皮膚を突き破ってジェーシーの機械の顔が剥き出しになった。
さらにジェーシーは、殴られた衝撃でフロアの壁に、その身体をめり込むほど吹き飛ばされてしまう。
壁にめり込んだジェーシーを睨んでブルドラが叫ぶ。
「ここで決着をつけてやるッ! 覚悟しろ、ドクター·ジェーシーッ!!」




