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ジェーシーは、ブルドラの言葉を聞くと、その悶えているような震えを止めた。
さらに艶っぽかった表情を変え、鋭い目でブルドラのことを見る。
機械であるジェーシーの両目が、まるで獲物狙う爬虫類のような、薄気味の悪いものとなっていた。
だがブルドラは、そんなジェーシーを前にしても、怯まずに口を開く。
「あなたは肉体を捨てて、自分の脳をこの街に繋げたんだ。ドクター・ジェーシー・ローランドはそのときに死に、アンプリファイア・シティは意思を持つ都市となった」
電気回路で発達した犯罪都市――アンプリファイア・シティ。
その街並みは、石畳の地面にゴシック調の建築物が並ぶ。
ふと顔を上げれば、街に張り巡らされた配線が何千、何万も見えることができる。
ブルドラはその配線が、街のインフラを供給するためのものだと聞いていた。
電子ネットワークの回線や電気を送るものだと信じていた。
たしかに無数の配線は、供給目的のものでもあった。
だが、あれはこの街とジェーシーの脳を繋ぐためのものだったのだ。
ならば、ジェーシーの本体というべき彼女の脳を破壊すればいいと思われるが。
ジェーシーは、ブレインズの能力である真の通路――。
特殊な電波を脳から飛ばし、電子ネットワークへ意識を送り込む力を応用し、すでにサイバースペースに住む存在へとなっているのだ。
そのため、たとえジェーシーの脳を破壊したところで、彼女はネットワークの世界で生き続ける。
「わざわざ有線のネットワークにしたのは、この街に自分の神経でも表現したかったからか?」
ブルドラが街に張り巡らされた配線の意味を問うた。
ジェーシーはピクリとも動かずに、無機質な爬虫類顔で答える。
「あぁ、あれね。あれは無線にするほどの機材を手に入れられなかったからよ。じゃなきゃ、あんな時代遅れのものなんて使わないわ。連合国から逃げ回っているとね。何かとお金が掛かるから、必要なものをそろえるのも一苦労なの」
「それでイーストウッド局長に話を持ち掛けたんだな」
「えぇ。だけど、彼には裏切られちゃったみたい。あなたたちも見たでしょ? この街を覆っていた白い光を」
「そうか、あの光とさっき聞こえた爆発音は、イーストウッド局長が……くッ!? やはり連合国は信用できないな!」
ブルドラが表情を歪める。
ジェーシーの話を信じるのなら、イーストウッドは手を組んだはずの彼女ごと、この街を消そうとしたのだ。
それでもまだ、ジェーシーや自分たちを消そうとするのは理解できる。
しかし、アンプリファイア・シティごとすべてを無かったことにするなど、まともな感覚ではない。
「そんなの……大量虐殺と同じじゃないか……」
言葉を漏らすブルドラに、ジェーシーは言う。
「でもまあ、そんなことはどうでもいいのよ。運よく街を守ってくれた聖女様がいたしね。誰が裏切ろうが裏切られようが、当初の目的に何の支障はないわ」




