033
今にも飛び掛かって行きそうなヴィラージュだったが。
彼女はふぅと息を吐き、マローダーが放り投げた部下の拘束を解いて他の者たちに担がせた。
そして、そのまだ幼い顔を激しく歪めて言う。
「オッケーだ、マローダー。今日のとこは言う通りしてやるよ。けどな、見逃してやるっては、こっちのセリフだってことを忘れるなよ」
威嚇するように言い放ったヴィラージュ。
だが、マローダーは暖簾に腕押しといった様子で、その場から去っていった。
ヴィラージュはそんな彼の背中に舌打ちをすると、振り返って出入り口へと向かう。
勝手に話が終わり、しかも自分が捕まえた赤い開拓者まで解放されてしまったパロマは納得ができず叫ぶ。
「逃げるのかヴィラージュッ!? 暴れたいなら私が相手になるぞ!」
挑発するパロマへ背中を向けながらヴィラージュが返事をする。
「いつも言ってんだろう? あーしはザコとはケンカはしねぇ。口喧嘩でよかったらいつでも付き合ってやんよ」
「貴様ッ! 私を侮辱するのかッ!?」
「悔しかったらもっと強くなれよ筋肉女」
「うぐぐ」
そう返事をされても、パロマは動くことができなかった。
それは、ヴィラージュが背を向けながらも、凄まじい殺気を放ち続けていたからだ。
それから、パロマはマローダーのほうを追いかけてその場を後にする。
帰っていくヴィラージュに、シヴィルが声をかける。
「またね、ヴィラージュ」
「シヴィル、テメェとはそのうち決着をつける。顔を洗って待ってろよ」
「それは大丈夫。シヴィルは清潔だから」
そして、ヴィラージュが赤い集団を引き連れて帰っていくと、シヴィルはムドと共にパロマを追いかけていった。
揉め事が終わったのを確認すると、出入り口に集まっていた警備ドローンたちも戻っていく。
「あのヴィラージュって子、そんなに強いの?」
ディスが訊ねると、リズムがはぁ~とため息をついた。
その傍ではニコも両手を上げ、やれやれといった様子で首を左右に振っている。
彼女たちがこういう態度を取るのもしょうがない。
何故ならばディスが配属されたときに渡された資料には、ヴィラージュのことは書かれていたからだ。
そのメディスンが作った資料には、ヴィラージュや赤い開拓者のことだけでなく、この街――アンプリファイア・シティで注意するべき人物と組織はすべて記載されているはずなのだが。
どうやらディスはまだ資料に目を通していなかったようだ。
「もう……どうなのよ、それ……」
「なんかゴメン……」
「もういいわよ。じゃあ、見学はこの辺にして、資料の説明をしてあげる。それでいい?」
「リズムにお任せするよ」
「あなたねぇ……。まぁ、いいわ。とりあえず第三班へ戻りましょう」
リズムは、資料を見ていなさそうなディスを気遣って、呆れながらも内容を説明すると言った。
それから二人と電気羊は、第三班の部屋がある三階へと向かった。




