325
リズムは自力で立ち上がる。
満身創痍――フラフラの状態で再び両腕を広げる。
「やめてくれッ!」
ディスはそんな彼女のことを背中から抱きしめた。
これ以上何をするんだと、まだ何かしようとしているリズムを必死で止める。
だが、リズムは言う。
「今のはね……。メイカさんが持っていた神具の力なの……」
ディスは、自分のことを振りほどこうとしないリズムの言葉に耳を傾けた。
時を操る力を持つ神具クロノス。
以前に、リズムの師であるマスター·メイカ·オパールが持っていた奇跡を起こせるもの。
クロノスはすでにこの地球へと還ったが、メイカはその力を引き出せる術を編み出した。
リズムはその術を使ったことで、街をなんとか救えた。
「未熟なあたしじゃ……その反動が凄いけど……。ともかくもう街は大丈夫……」
「なら、これ以上何をするつもりなんだッ!?」
ディスは泣きながら言葉を返す。
そんなボロボロの身体で、また妙な術を使うつもりなのではないかと、その掠れた声を張り上げる。
リズムは、そんな彼を宥めるように返事をする。
「自分にできることは思い出したの。気が付くのが遅れちゃったけど……。これでドクター·ジェーシーの呪縛から皆を解放できる」
「いいよそんなのッどうでもいいッ! 俺は君がいてくれれば、それだけでいいんだッ!」
「ありがとね、ディス……。でも、これがあたしが……受け取ったものだから……。大好きだった人たちが残してくれたやり方だから……」
リズムの宙に浮いていた彼女の身体から剥がれていった光。
その無数の光球が、街中へと散っていく。
その光は、ディスの頭にも飛んできた。
ディスはその光の暖かさを感じると同時に、まるでリズムに抱きしめられているような感覚を覚える。
「この光は……リズムそのもの……?」
「ディス……あとはお願いね……。あなたを戦わせたくなったけど……。もう、あなたにしか頼めない……」
「リズムゥゥゥッ!」
再び倒れたリズム。
ディスもまた先ほどと同じように、彼女の身体を抱き上げる。
「リズム……。リズムリズムリズムリズムゥゥゥッ!」
枯れた喉で名を叫ぶ。
抱いたリズムの身体は冷たく、血液を抜かれた死人のようだった。
だがその表情は、やり切った者の満ちた顔をしていた。
「うおぉぉぉぉぉぉッ!」
電波塔――Wiring Control Tower(ワイアリング·コントロール·タワー)、通称W.C.Tの屋上で――。
ディスの獣のような咆哮が響き渡った。
そして彼は、想い人の身体を力強く抱いてその場から去って行った。




