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これは幻聴ではない。
パロマがそう思うと、自分の身体の変化に気が付いた。
急速に変わっていく筋肉と骨。
それがメキメキと鳴ったかと思うと、今度は金属同士がぶつかり合う音へ変化していく。
マシーナリーウイルスによる機械化――装甲だ。
ゆっくりと流れる時間の中で、パロマはマローダーへと視線を戻す。
すでに自身の刀――夕華丸は鞘から抜かれている。
だがマローダーの身体に届く前に、ピックアップブレードは真っ直ぐパロマの額へと向かって来ていた。
「うおぉぉぉッ!」
咆哮するパロマ。
その瞬間に、スローモーションのようだった時間の流れが元に戻った。
パロマは機械化した左腕でブレードを弾き、右手で抜いた刀をそのまま振り抜く。
夕華丸の刃が、マローダーの胴体を横一文字に斬り裂いた。
だが、それでも怯まない。
マローダーは腸が剥き出しにしながらも、表情一つ変えずに次の一撃へと移っていた。
弾かれたブレードを撃った速度と同じスピードで戻し、そのまま光剣を振り落とす。
剣を弾いた衝撃で態勢が崩れていたパロマ。
その頭上に輝く光の刃。
もうブレードを弾くことも、剣で受けることもできない。
そう思われたが――。
「――ッ!?」
パロマの抜刀術で斬られた胴体から、突然炎が噴き出した。
それはマローダーの腹から流れる血を蒸発させながら、彼の全身を一瞬で包む。
「この……炎は……」
パロマの目の前でマローダーは、その凄まじい炎の全身を焼かれ、握っていたブレードを落とした。
その炎をパロマはよく知っている。
薄紫色の灼熱――それは彼女やシヴィルと同じく、才能の追跡官第三班のメンバーであるムド·アトモスフィアのものだった。
「ムド……。お前も……シヴィルのように……」
パロマは涙を流して俯く。
自分は仲間に守られたのだと。
マローダーは、全身を焦がされながらもパロマの前に仁王立ち。
傷や自分の身体を燃やす火炎などものともせずに、その口を開く。
「剣だけではなかった……。装甲と……炎も語った……。見事……。“お前たち”の勝利だッ!」
そう声を張り上げたマローダーは、パロマに深く頭を下げると、顔を上げてそのまま燃え尽きていった。
その表情は、電子ドラッグで操られている人形――いや、それ以前の無愛想な彼の顔でなく、仄かに笑みを浮かべているように見えた。
「マローダーさん……」
パロマはヒビの入った愛刀を鞘に収めると、彼と同じく深く頭を下げた。
そして、起きた奇跡――。
仲間たちのことを想って涙した。
「シヴィル、ムド……。私は勝ったぞ……」




