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――アンプリファイア・シティから少し離れた空。
そこに連合国軍の航空機が一機で飛んでいた。
「そろそろいいか」
その機内の一室で、イーストウッドがどこかへ通信をする。
彼はドクター·ジェーシーに言われた通りに、住民たちへリズムたちが犯罪者となったことを伝えると、街を出ていた。
状況的に脱出するようなこともなかったのだが、イーストウッドにはある考えがあったのだ。
「私だ。あれはいつでも発射できるか?」
通信で、アンプリファイア・シティの傍に待機させていた連合国軍の将校に訊ねるイーストウッド。
彼に言うあれとは戦略兵器のことだ。
ドクター·ジェーシーと手を組んだイーストウッドではあったが。
もしものときのために、いつでもアンプリファイア・シティを攻撃させる準備をしていたのだ。
その戦略兵器は、直径三メートルはある巨大なビーム砲。
街など優に破壊できるものだった。
もちろん、連合国軍の上層部へ兵器の許可を得なければいけないのだが。
事前に根回しをしていたイーストウッドは、最悪事態が起こった場合には、兵器を使用することを許可できる権限を手に入れていた。
「ストリング帝国が現れ、さらに才能の追跡官たちが裏切った。特殊能力者の集団を放っておけば、世界中に被害が出ることは明白だ。二年前のような戦争を起こさないためにも、アンプリファイア・シティは現時刻を持って破壊する」
イーストウッドの言葉を聞いた連合国軍の将校は、驚愕の声をあげていた。
帝国が現れたことは報告で聞いていたが、まさか才能の追跡官たちが裏切ったことは知らなかったからだ。
将校は、他の班員ならばともかく、血塗れの聖女――リズム·ライクブラックが裏切ったことに大きなショックを受けているようだ。
そんな彼にイーストウッドは、声を押し殺して言う。
「私も残念だ……。戦場は違えど、彼女とは前の戦争で味方同士だったからな。だが、個人的な感情に振り回されていては、機を失う……。ここで叩いておかねば、特殊能力者を加えた帝国が再び戦争を起こすぞ」
イーストウッドは、説明するかのように言葉を続けた。
アンプリファイア・シティの住民たちを避難させている時間はない。
今やらなければ、街にいる犯罪者たちがテロ組織へと変わってしまう。
平和のため、戦争を起こさないためにもここですべてを終わらせる必要がある。
苦渋の選択。
将校は、イーストウッドの言葉を聞き、通信越しに敬礼でもしているのだろう。
姿こそ見えないが、イーストウッドの判断に敬意を表す、背筋を伸ばしているのがわかる声で返事をした。
「では、頼むぞ。世界平和のためにな」
そして、イーストウッドはそこで通信を切った。
自室の窓から外を眺めた彼は、不敵に微笑む。
「私の一人勝ちだな。フフフ、フッハハハッ!」
込み上げてく感情を堪えきれず、高笑うイーストウッド。
彼はもうすでに見えなくなっていたアンプリファイア・シティの方角を見ながら、一人勝ち誇っていた。




