032
リズムに追いついたディスが息を切らしながら訊ねた。
あの赤い集団と、その先頭にいるのは誰なのかと。
「燕尾服もシルクハットも、おまけにガスマスクまで真っ赤なんて、どぎつい人たちだね」
「あれは赤い開拓者っていうマフィアだよ。そして、先頭で喚いているのはそのボス、ヴィラージュ」
リズムは説明する。
赤い燕尾服の集団は、この街――アンプリファイア・シティにある四つの区域の一つであるヴォックス・エリアを取り仕切っているマフィアの集団。
そして、そのマフィアのボスは目の前に見える幼女――ヴィラージュであると。
身長は百三十センチあるかないかで見た目は完全な幼女だが、目つきが以上に悪い。
「あんな小さな子がマフィアのボス?」
「見た目に騙されちゃダメだよ。彼女も特殊能力者。じゃなきゃこの街であんな態度とれないでしょ」
その通りだとディスが思っていると、リズムが前に出ようとした。
だが彼女が出る前に、同じ第三班の班員シヴィルとムド、そしてパロマが赤い幼女の前に立つ。
シヴィルが眠たそうな顔で言う。
「久しぶり、ヴィラージュ。相変わらず元気だね。そして、口と人相が悪い」
「ようチビッ子。お前は相変わらず眠たそうだな」
シヴィルはヴィラージュの返事を聞いて、ムッと不機嫌そうな顔になる。
「チビッ子じゃない、シヴィルだよ。それに、ヴィラージュのほうかシヴィルよりチビッ子」
「あんッ!? テメェ、ケンカ売ってんのかッ!?」
シヴィルもヴィラージュもそこまで身長も身体の大きさも変わらない。
だが、どうやら互いに相手よりは大きいと思っているようだ。
激しく睨みつけるヴィラージュに対し、シヴィルはあくびを掻いて応戦している。
そこへ傍にいたパロマが間に入る。
「お前の部下を捕らえたのは私だが、こんなゾロソロと引き連れてわざわざ捕まりに来たのか?」
「あんッ? あーしはザコと話す趣味はねぇ。とっとと失せろ、金髪筋肉女」
「だ、誰が筋肉女だッ!」
そこからヴィラージュとパロマの口喧嘩か始まった。
そのまるで子供の喧嘩ような二人を見て、シヴィルとムドか呆れている。
「どっちが勝ってもいいけど……。このまま何事もなく帰ってくれねぇかな……」
「ムドは甘い……。パロマもヴィラージュも、もともと口よりも手が先に出るタイプ」
二人がそんな話をしていると、突然その場に何人かの人間が放り投げられた。
「お前の欲しいのはこれだろう? かえしてやるからさっさと帰れ」
投げられたのは、縛られたままの赤い開拓者たちだった。
そして、ヴィラージュに声をかけた人物が前へと出てくる。
小柄で顔中に小さな傷がある男だ。
「マローダー、テメェッ!」
「マローダーさんッ!? 何故ですッ!?」
ヴィラージュ、パロマが同時に顔を歪める。
マローダー·ギブソン――。
元はストリング帝国――現在はストリング王国において名門ギブソン家の長子。
前の戦争末期に連合国に捕らえられ、現在は才能の追跡官メンバーとしてエヌエーが班長している第二班にいる。
結成されたばかりの軍警察内で、最強と言われている男だ。
喚く二人を前に、マローダーは近づいていく。
そして、無表情のままその口を開いた。
「帰れ、ヴィラージュ。今日のところは見逃してやる」




