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光の刃がブルドラとラウドを焼き斬ろうと向かって来る。
二人は左右に分かれて避けながら反撃。
バヨネット·スローターをアバロンの両サイドから振り落とした。
左からブルドラ。
右からはラウド。
合図も無しに息の合った同時攻撃を見せたが、アバロンには通じなかった。
彼は打ったブレードを同じ速度で戻し、二人がバヨネット·スローターを振り落とす前に大振り。
慌てて防御した二人を下がらせ、先ほどの問いの答えを訊ねる。
「ドクター·ジェーシーや電子ドラッグについてどこまで知っている?」
言葉を口にしながらも、アバロンの猛攻は止まらない。
まるで腕が何本、何十本もあるかのように、凄まじい連撃で二人へと襲い掛かる。
二対一だというの、手数はアバロンのほうが上回っていた。
いくら特殊能力者――マシーナリーウイルスの力を持つアバロンとはいえ、その動きはあり得ない。
一呼吸する間もなく、休みのない斬撃が放たれ続ける。
「知らない! ブルドラに聞いてッ!」
ラウドは笑みを浮かべているが、余裕がないのか声が荒ぶっている。
それはブルドラも同じだ。
いや、ラウドとは違い、近接戦闘の経験が浅い彼女にとって、アバロンほどの強敵と正面切ってやり合うのは初めての経験だろう。
ブルドラは、アバロンの攻撃を受けながらもなんとか返事をする。
「すべて知った! ドクター·ジェーシーのことも電子ドラッグのこともッ!」
ブルドラは自身の力――。
特殊な電波を脳から飛ばし、電子ネットワークへ意識を送り込む能力である真の通路使って、ジェーシーとイーストウッドの邂逅映像を入手していた。
彼女はその情報集めの中で、ドクター·ジェーシーの機密データを見つけたのだ。
それは暗号化されたものではあったが、これまで才能の追跡官として活動してきたブルドラにとっては、いとも容易く解読できた。
アバロンの訊ねられた抽象的な問い――具体性に欠ける質問の答えを、ブルドラは知っている。
ドクター·ジェーシーの正体も。
電子ドラッグについても。
嵐のような猛攻を続けながらアバロンが言う。
「そうか……。ならば、奴を倒す方法もわかるか……」
その声色は、とても平坦で抑揚などない。
その反面、振るわれる剣は確実に殺そうとしている。
チグハグな態度の帝国の将校を見たブルドラとラウドだったが。
二人には何故か、アバロンが安心しているように感じていた。
「恥を……忍んで頼む……。ネアに会ったら……あいつに……」
その一言を最後に――。
ストリング帝国の再興を目指した騎士は、完全に自我を失った。




