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パロマが先ほど呟いた言葉から察し、二人も理解したのだろう。
マローダーとアバロンの引き連れた兵隊たちが下がっていったのは、リズムがアンプリファイア・シティに向けドクター·ジェーシーとてイーストウッドの企みを暴露したのだのだと。
おそらくは街の住民が、リズムの告発によって暴動とはいかないまでも動き出したのだ。
その対処をしなければならなくなった兵隊らは、パロマたちを相手にしている場合ではなくなったことは、彼らが引き上げていったことでわかる。
だが、マローダーとアバロンは残っている。
ジェーシーは、二人だけでも十分パロマたちを倒せると思っているのだろう。
実際にマローダーとアバロンの実力ならば、それも可能だと思われる。
だが、窮鼠猫を噛むという言葉があるように。
追い詰められた才能の追跡官たちは、そこまで甘くはない。
パロマを初め、ブルドラとラウドも覇気に満ちている。
「もうドクター·ジェーシーとイーストウッドは終わりだ。後はこの場さえ凌げば、私たちの勝利と言える」
夕華丸を構えて言うパロマに、マローダーが歩を進める。
「かもしれない。しかし、この場ではもうどうでもいいことだ。さあ、剣で語り合おう。それがこうなった俺が生きている理由なのだから」
マローダーが、いつからドクター·ジェーシーによって電子ドラッグを打たれていたのかはわからないが。
操り人形になった彼にとって、戦いだけが唯一の矜持。
パロマはマローダーに応えるように、彼へと向かっていく。
ここから先に言葉はいらない。
二人の持つ剣がそれを語っている。
「たとえ敵わなくとも……一太刀でも浴びせて、仲間たちの無念を晴らすッ!」
二人の距離が縮まると、パロマが声を張り上げた。
彼女はそれと同時に斬り掛かり、それが合図となってブルドラとラウド、そしてアバロンを動き出す。
マローダーのブレードとパロマの軍刀が激しくぶつかり合う。
光の刃と高周波ブレードが火花を散らし、二人が同時に叫ぶ。
装甲と叫んだ声と共に、剣を重ねた二人の腕が白い鎧甲冑のような装甲で覆われていく。
マシーナリーウイルスによる機械で身体能力を向上させたことで、周囲に凄まじい衝撃が放たれていた。
「想いのこもった良い一撃だ。お前の剣は雄弁に語っているぞ」
そう言ったマローダーの口角が、パロマには上がっているように見えた。
傷だらけ彼の顔は、これまで何があっても変わることない無表情だったが。
どうしてだか、この状況を楽しんでいるかのように見える。
「何が楽しいッ!? マローダー·ギブソンッ!」
「俺は剣で語るのみ……。 知りたければ来い! パロマ·デューバーグッ!」
大声を出し合った二人の剣は、そこからさらに激しさを増していった。




