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ディスが生まれるずっと昔。


ストリング帝国にはレコーディ·ストリングという皇帝がいた。


その男は、王としてのすべてを兼ね備えた人物で、感情に左右されない政策を行い、まるでプログラミングされたコンピューターのように国を治めていた。


当時は、コンピュータークロエの暴走によって、世界中に合成種(キメラ)と呼ばれる人型の化け物が暴れ回っていた。


レコーディ·ストリングは、合成種(キメラ)から世界を解放するために、化け物を駆逐するための政策を考えた。


「それは軍隊の強化。兵たちを合成種(キメラ)に負けない強い身体にすることだったの」


そのために造られたのが、あるウイルスを生み出した研究施設だった。


その研究施設の名は、ローランド研究所と言う。


「私の父はね。帝国の科学者だったの。だから研究所の名前も父の姓が使われた。そこでは休みなく人体実験が繰り返されたわ」


ジェーシーは無感情のまま言葉を続けた。


彼女もまた父の後を継ぐべく、帝国兵たちを検体にした実験に参加させられていた。


「マシーナリーウイルスの実験か……」


「そうよ。私も父の言われて手伝わされていたわ。おかげでナイフやフォークよりも、鉗子(かんし)の使い方のほうが上手になっちゃった」


もっともそれはレコーディ·ストリングというよりは、彼女の父の趣味のせいだったと、ジェーシーは言う。


「もうウンザリだったわ。私は父と違って嗜虐趣味がなかったからね。でも、ロラン·ローランドの娘に生まれた以上、選択する自由なんてない」


彼女ら親子を、ストリング帝国の人間は(さげす)み、()み嫌った。


一部の者しか知らない機密事項ではあったものの、ローランドがやっていた研究が人道を外れたものであったことが噂になっていたからだった。


「当然、帝国の連中は娘の私にもあまり良い感情を持たなかったわ。そんな隔絶された環境で、私は来る日も来る日も人体を刻み、脳を弄り回していた。でも、いつかマシーナリーウイルスが完璧にコントロールできるようになれば、この生活から解放されると思ったの。だけど、そんな日は来ない。生まれて死ぬまで、私の人生はこれしかない」


「だからか。帝国を裏切ったのは」


ディスが口を開くと、ジェーシーは彼から離れた。


そして、ディスの正面へと立って、これまでの無感情が嘘だったかのように歓喜の声を上げ始める。


「違うわよ。それでも私は帝国の科学者としての誇りは持っていた。だけどあの人との出会いが、そんな血と脳髄に(まみ)れた汚らわしい誇りを拭い去ってくれたの!」


ジェーシーは、両手を大きく広げてクルクルと周り出した。


その様子は、まるで恋をする無垢な少女が、想い人を語っているときのようだった。

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