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――マーシャル·エリアにある電波塔Wiring Control Tower通称W.C.T(ワイアリング·コントロール·タワー)。
ここは、ボス·エンタープライズが建てたアンプリファイア・シティすべてのインフラを賄っている街の中心部だ。
街に張り巡らされている無数の配線も、すべてはこの施設から出ている。
当然アンプリファイア・シティのネットワークや電力の管理をしており、この年中夜のような気候の地域で豊かな生活を享受できているのは、この建物のおかげであることは間違いない。
「リズム·ライクブラックが目覚めたか……」
その地下にある部屋で、ドクター·ジェーシーが呟いた。
彼女は長い髪に隠れたうなじから繋がった配線と取ると、腰かけていた椅子から立ち上がる。
そして、顔をしかめて爪を噛み始める。
「まさか、あの状態から息を吹き返すなんてね。生命エネルギーのほとんどを奪ってやったのに……。本当にタフな子。可愛い顔してよくやるわ」
独り言を呟いたジェーシーは、爪を噛んでいる自分に気が付くとすぐにいけないと思い、その行為を止めた。
そして、履いているハイヒールをコツン、コツンと鳴らしながら、彼女の座っていたデスクの対面の座っている人物の前へと歩く。
そこには、オレンジの髪色をしたツギハギだらけの顔の少年――ディス·ローランドがいた。
座っている彼の身体は、その特別な椅子によって固定されている。
手足はもちろん、胴体も首も頭さえもガッチリとか押さえつけられまったく動かせない状態だ。
「当然だよ。リズムが死ぬわけない」
「根拠もないことを。しかも、よくそんな状態で言えるわね」
アバロン共に囮となったディスだったが。
そのときに現れたマローダー·ギブソンとドクター·ジェーシーの罠に嵌められた。
その罠とは、アバロンが他のストリング帝国の兵たちと同じく、ジェーシーによって電子ドラッグを注入されていたことだった。
アバロンは、ディスの目の前でジェーシーの傀儡とされてしまう。
ブレインズの能力を使用したディスでも、マシーナリーウイルスの力を持つ実力者二人には敵わず、こうやってジェーシーに捕らえられていた。
ジェーシーは椅子に固定されているディスの背後へと回る。
そして、後ろからそっと手を伸ばし、艶めかしい手つきで彼の頬に触れる。
「でも、彼女はもういらないわ。結局、あの気については解明はできなかったけど、原理は感覚的にだけど把握できたからね」
「お前なんかに彼女の力が理解できてたまるか。リズムの力は、リズムの先生がリズムだから教えた特別なものなんだ」
怯まずに胆力を見せつけるディス。
ジェーシーはそんな彼に触れていた手の爪を突き立てた。
苦痛に顔が歪むディスだったが、それでも臆することなく気を吐き続ける。
「無駄だ。俺に拷問なんて意味がない。お前が俺にした地獄を比べれば、こんなもん虫にさされたようなもんだよ」
そう言ったディスの顔が次第に緩まっていく。
「リズム……よかった……。目が覚めたんだ……。本当に……本当によかったぁ……」
自分の状態など気にすることなく、ディスは涙を流しながら嬉し泣きをし始めた。
このまま拷問の末に殺されるかもしれないというのに、彼はリズムが意識を取り戻したことを心から喜んでいる。
そんな彼を見て、ジェーシーは微笑む。
そして、爪を立てた手を戻して指に付いた赤い血を舐め始めた。
「じゃあ、あの子のことなんて私が忘れさせてあげるわ」
ジェーシーの言葉と共に、ディスを固定していた椅子が機械音を鳴らし始めた。
だが、ディスはまったく気にすることなく、嬉し泣きを続けるのであった。




