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そこからアバロンの怒涛の攻撃が始まった。
嵐のようなブレードの連撃。
光の刃がまるでいくつも見えるような凄まじく、そして鮮やかな猛攻だ。
「腕を上げたな、アバロン·ゼマティス少尉。いや、今は少佐だったか。あの騎士道精神にかぶれたヒヨッコが、ずいぶんと出世したものだ」
「黙れ裏切り者ッ!」
ディスの見立てでは二人の剣技は互角。
同じストリング流というだけあって出す技にも差がない。
それに、付き合いが長いのだろう。
アバロンもマローダーも互いに相手の癖がわかっており、次に何をして来るかを理解し合っているようだった。
「なら、俺が協力すれば勝てる」
ディスは右足を踏み込んで能力――スイッチング·ブーストを発動。
能力が発動したことで、ディスの全身に再び電子回路のラインのような光が巡っていき、その両目が赤く輝く。
歪ませた脳が悲鳴をあげ、そのツギハギだらけの顔が苦痛で歪む。
ディスはアバロンと二人掛かりならば、才能の追跡官の中で最強といわれたマローダーを倒せると考えた。
「うおぉぉぉッ!」
激しく打ち合っている二人の間に飛び込んでいく。
当然マローダーはディスを迎撃しようとブレードを振ったが。
スイッチング·ブーストによって相手の動きを最速で脳が演算し、数秒後に何をして来るかを把握できるディスには当たらない。
しかも、目の前にはアバロンがいる。
これには、さすがの最強といわれた男も押され始めていた。
ディスの蹴りを機械化した腕で受け、アバロンのブレードを同時に防いだマローダーは強引に後退させられる。
「二対一というのは性に合わんが、裏切り者に礼儀は不要。このまま斬り捨てさせてもらう」
アバロンが静かに言うと、マローダーは無表情のまま再び身構えていた。
特殊能力者二人を相手にし、圧倒的な不利な状況に追い詰められても、彼に動揺は見られない。
「傀儡にされた兵たちの無念。ここで晴らしてやる」
「それちょっと違うわよ」
そのときだった。
この戦場に女性の声が聞こえて来たのは。
「この声はッ!」
「やはりというべきか……。ドクター·ジェーシーッ!」
ディスとアバロンがその声が聞こえるほうを振り向くと、そこには白衣を着た妙齢の女性――ジェーシー·ローランドが立っていた。
ジェーシーは声を張り上げたアバロンを見て、クスッと笑うとマローダーの後ろにつく。
そして、両腕を組んで相手を見下ろすように口を開いた。
「あらあら、誇り高きローズ親衛隊の騎士が、どうして連合国の犬と一緒にいるのかしら? ねえ、どうして、アバロン少佐?」
からかうようなジェーシーの態度に、アバロンはさらに感情を高ぶらせていた。




