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最上階のフロアもまた人気がない。
だが、パロマたちはそれでも警戒を怠らなかった。
むしろ、下の階のとき以上に周囲への確認を強めている。
当然口を開くこともせず、何か目に入ればすぐにでも飛び掛かれる態勢で進んでいく。
足音一つ立てずに、コラスのいるCEOルームを目指す。
清潔な廊下を背中合わせに歩いて行くと、いくつかの扉が目に入った。
扉には何も表示されていないものと、CEOルームの文字が見えるものがあった。
「……ここだな」
パロマが皆に小さく呟くように言うと、彼女は扉の取っ手を掴んだ。
シヴィルとラウドは、銃剣付き拳銃――バヨネット·スローターを構える。
ネアはフロアを見回している。
「……行くぞ」
パロマは腰に帯びた軍刀――夕華丸の柄をグッと握ると、CEOルームの扉を開いた。
最初にシヴィル、ラウドと部屋に乗り込み、バヨネット·スローターの銃口を室内へと向ける。
二人に続いて、パロマも夕華丸を鞘から抜いて中へと踏み込む。
ネアは、誰に言われるでもなく部屋の外を見張っていた。
「こんにちは、才能の追跡官さんたち」
CEOルームのデスクには、上下白のスーツ姿に眼鏡。
髪型はセンター分けのショートボブの女性――コラス·シンセティックがいた。
コラスは、剣や銃口を向けられても動揺することなく、にこやかにパロマたちのことを迎え入れる。
その余裕の態度に、パロマは不快感を覚えた。
だが、気にせずに口を開く。
「申し訳ないが、私たちと来てもらいます」
「あらあら、ずいぶんと急なお願いね」
丁寧に言ったパロマに、コラスがそう答えると、彼女はデスクから立ち上がった。
その様子を見るに、素直に言うことを聞いてくれそうだ。
コラスが着ていた白いジャケットの皺を手で直していると、部屋の外からネアの叫び声が聞こえてくる。
「パロマちゃんッ! あなたの思っていた通りやっぱ罠だったみたい!」
「なにッ!?」
パロマはシヴィルとラウドに、コラスのことを任せて部屋の外へと飛び出した。
そこには、先ほどはいなかったはずのボス·エンタープライズの社員たちがゆっくりとこの部屋に向かって来ていた。
それも一人二人ではない。
おそらくは社内にいた社員すべてだろう。
男も女も何故か武器すらも持たずに、パロマたちのいるCEOルームの前を見つめてた。
「やはりか……。だが、これくらいは予想していたことだ」
「その通りだよ、パロマちゃん。さて、いっちょやっちゃいますか」
砂糖に群がる蟻の集団のような社員たちに、パロマとネアは身構えた。




