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アバロンはネアから離れ、ディスの前に立つ。
「それは一体どう意味だ、少年?」
「そのまま意味です。俺はリズムが元気なら、それ以外何も望みません」
「では、君はリズム·ライクブラックのために才能の追跡官になったと、そういうことか?」
「はい。そうです」
迷いのない真っ直ぐな瞳。
噓をついている様子はない。
大袈裟に言っているようにも見えない。
このツギハギだらけの顔の少年は、心からそう思って発言しているのだ。
アバロンはここまで言い切るとはと、内心で驚いていた。
だが、そんな者が戦いの場に赴いていたのことに嫌悪感を抱く。
「ならば君はこのままで良いと? そういう意味に捉えられるが」
「そういうわけじゃないです。だけど、まずはリズムを助けに行かなきゃ」
それからディスは、アバロンが訊ねてもいないことを話し始めた。
自分たちが連合国軍とストリング帝国軍に追われている状況ならば、軍警察署にいるリズムの身が心配だ。
すでに捕らえられてしまっている可能性がある。
ディスとしては、ドクター·ジェーシーやイーストウッドなど放っておいて、今は何よりも先にリズムを救出することを優先したい。
話を黙って聞いていたアバロンは、思わず両腕を組んでため息をつく。
軍警察の本部は、今ディスが言ったようにすでに敵地となっているだろう。
そこへ飛び込んでいくなど、この上なく愚かなことだ。
「今軍警察署へ向かうことは愚の骨頂。為す術もなく捕らえられて終わりだぞ」
「なんとかします。俺がここへ来たのは、コーダさんをあなたたちのところへ連れて行ってあげたかったってだけですから。じゃあ、これで失礼します」
ディスはそう言うと、アバロンとネアに会釈。
それからベットで眠っているコーダに深々と頭を下げ、部屋を出て行く。
ラウドはディスを止めなかった。
やれやれといった表情で、ただ嬉しそうに笑っているだけだ。
「待て、ディス·ローランド」
出て行こうとしたディスの背に、アバロンが声をかけた。
ディスは足こそ止めたが、彼に背中を向けたままだった。
アバロンは構わずに言葉を続ける。
「出て行く前に一つ聞かせてほしい。コーダと君はどういう関係だったんだ?」
何の意図もない、ただのアバロンの個人的興味からの質問だった。
彼はリズム以外はどうでもいいと言っていたわりに、コーダへ敬意を表してディスが気になったのだ。
「コーダさんは、道に迷っていた俺に親切にしてくれた人でした。それだけの関係です」
抑揚のない声で返事をしたディス。
ネアはまだ彼の背中を睨みつけていたが、アバロンはフンッと鼻を鳴らして笑みを浮かべていた。




