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「そ、それは第三班のリズム・ライクブラックのことですか?」
少し間が空き、エヌエーが静かに訊ねると、ディスはコクッと力強く頷く。
そのツギハギだらけの顔には合わない真っ直ぐな瞳を見て、エヌエーは思わず微笑んでしまっていた。
「はい、俺はリズムと会うために才能の追跡官に志願しました」
間違いなくそうだと放たれたディスの言葉に、会議室がどよめく。
そして、彼の言葉に誰よりも動揺していたのは、もちろんリズムだ。
彼女はどよめく会議室の空気の中、椅子に寄り掛かって両目を見開いている。
「命の価値が安いこの街へ、自ら来た理由はそれか。彼は余程リズムが好きなんだね」
「あわわ……あわわわ……」
激しく狼狽え、言葉を失うリズム。
彼女は、ブルドラに声をかけられても身を震わせているだけだった。
それとは逆に、ニコはリズムの膝の上で嬉しそうに鳴いている。
前のほうの席では、同じく第三班のメンバーも驚いていた。
「なんかスゲー新人がうちに来たなぁ……。見た目のわりには普通のヤツだと思ってたんだけど……」
「シヴィルは気に入った。あの子のリズム姉への愛……好き……」
ムドとシヴィルに挟まれていたパロマは、そんな二人の言葉を聞きながらフンッと鼻を鳴らす。
(何が彼女に会いにだ。くだらん、まったくもってくだらん)
パロマは内心で苛立っていた。
彼女はあの狂気の善人であるリズムに、信者がいたことには驚きはなかったが。
それをわざわざ公言したディスの態度に怒りを覚えたのだ。
才能の追跡官の仕事は、遊びでも恋慕を行動して見せるためのものでもない。
あのツギハギオレンジ頭は私情を挟みすぎている。
それがどうにもパロマを苛立たせていた。
(まあ、遅かれ早かれあれは死ぬな。この街はそんな甘くはない)
「なあ、パロマ。聞いてんのかよ?」
苛立ちを抑えていたパロマにムドが声をかけると、彼女は静かにするようにと返事をした。
「また注意されるのはごめんだからな」
「わかったけどよぉ。パロマがどう思ったかを知りてぇんだよ」
声の音量下げ、ムドが訊ねるとシヴィルも続く。
「シヴィルも聞きたい。パロマはあの子のこと好き? 嫌い?」
二人に訊ねられたパロマは、正直どうでも良いと考えていた。
どうせあの新人――ディス・ローランドはリズムの信者だ。
もし自分とリズムの意見が分かれたときに、たとえどんな理由があろうと狂気の善人――リズム側につくだろう。
こちらに取り込めないのなら、駒として役に立たないと、パロマは思っていたが――。
「どちらでもない。私はただ自分の仕事をするだけだ」
「なんだよそれ? ここは多少なりともボケをかますとこだろ?」
「パロマ、つまらない答え……。それじゃ楽しくない。もっと面白いこと言って」
「お前たちは私を何だと思っているんだッ!?」
ムドとシヴィルにそう言われ、パロマは声を張り上げた。
自分はお前たちを楽しませるために、才能の追跡官になってわけではないのだと。
どよめいていた会議室に、響き渡るほどの大声で言い返した。
「パロマ·デューバーグ。二回目だぞ」
「す、すみません……」
そして、当然彼女はまたメディスンに静かにするように注意された。
申し訳なさそうに俯く彼女を見て、ムドとシヴィルはクスクスと笑う。
小馬鹿にされたと思ったパロマは、その身を震わせて二人を睨み付けるのだった。




