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ディスは、ネアの涙に潤む瞳を見つめて説明を始めた。
オレンジ·エリアでコーダと一騎打ちをし、決着がついたとき。
突然連合国軍とストリング帝国軍が自分たちを襲ってきた。
両軍から銃弾が放たれ、自分が蜂の巣にされそうになった瞬間にコーダが盾になってくれた。
その後に二人で協力して包囲を突破し、ラウドとパロマからのメッセージで状況を知ってこの店にやって来たと、ディスは淡々とネアへと話す。
「コーダさんは最後まで豪快な人でしたよ」
まるで他人事――。
もちろんそうなのだが、その場にいた者とは思えない言い方をするディスに、ネアは強張っていた泣き顔をさらに歪める。
「助けてもらったくせに……。なんなのよ、そのどうでも良さそうな態度はッ!」
「ネアッ!」
ディスに掴み掛かろうとしたネアに、アバロンが声を張り上げて止めた。
ネアはまるで訴えかけるようにアバロンのほうを見ると、再び涙を流し始める。
アバロンはそんなネアに寄り添うと、彼女のことを抱き寄せる。
彼は何一つ言葉をかけはしなかった。
アバロンの胸に顔を埋めたネアは、声を押し殺して嗚咽を吐いているが、それでも落ち着こうとしてる様子が感じ取れる。
「キャビだったか……。友人が取り乱した。匿ってもらっている立場でいながら、騒がしくしてしまい、誠に申し訳ない」
「いえいえ! そんなことは……」
突然声をかけられた家主であるキャビは、驚きながら返事をするとすぐに悲しそうな表情へと変わる。
「そのコーダって方は、ネアさんにとって大事な人だったとお見受けします……。感情的になるにも、しょうがないですよ……」
「そのように言ってもらえると助かる」
貧民街出身とは思えない礼儀正しい少女の口調に、アバロンも慇懃に言葉を返した。
「あたし、お茶を入れてきます」
「そんな気を遣わなくていいよ~」
「いえ、前にリズムさんから貰ったものですから」
ラウドにそう返事をしたキャビは部屋を出て行った。
それを見たパロマは、ヘアゴムを銜えて自分の長い金髪を纏め始めた。
「私も手伝って来る」
「シヴィルも」
そんなキャビの後に、パロマとシヴィルもついて行った。
「ねえ、パロマ。シヴィルも髪を纏めてほしい」
「わかったわかった。後で纏めてやる」
出て行った二人の声が聞こえ、そして消えていった。
部屋に残ったのは、ディス、ラウド、アバロン、ネア――。
そして、息をしていないコーダだけとなった。
ネアは少しは冷静さを取り戻したのか、アバロンから離れて彼に訊ねる。
「アバロン、これからどうするつもり?」
「腑に落ちんことは百も承知で言うぞ。この者たちと協力し、ドクター·ジェーシーとリプリント・イーストウッドを討つ」




