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頬に拳を食い込ませながら、ディスもコーダも下がらない。
次の瞬間には、すぐ攻撃に移っていた。
ディスが左の頬を殴り飛ばせば、コーダは同じように打ち返す。
コーダがボディブローを打てば、ディスも彼の腹部を殴り付ける。
二人とも一歩も譲らない。
その場から動かずに、ただ必死で拳を振るうだけだ。
その様子は、見る者によれば素人同士のストリートファイト――いや、子供の喧嘩と言っていい。
だが、二人は特殊能力者だ。
ブレインズとマシーナリーウイルスの強制者。
共に、身体能力を向上させる力の持ち主である。
どちらかの拳が相手にぶつかれば、その衝撃で周囲にある建物が激しく揺れる。
殴り合いを続ける二人の顔が腫れ上がっていく。
膨らんだ瞼で視界が遮られようが、関係なく腕を振り上げる。
「お前もバカだなディスッ! さっきよりパワーアップしてんなら俺の動きも読めんだろ!? なのに何故やらねぇッ!?」
「パワーアップしたって、これ以外のやり方じゃあなたを倒せないんだッ! コーダさん、やっぱり強いッ!」
「そいつは光栄だよ、オレンジ頭ッ!」
二度目のブーストでも、ディスはコーダを超えることができなかった。
コーダが何をしてくるかをわかっていながらも、避けることができない。
ならば、こうやって相手が倒れるまで殴り続けるしかない。
だが、やはりというべきか、コーダは想像以上にタフだった。
この男にも、ディスと同じように背負っているものがあるのだろう。
想いの強さは互角。
それなら後は何で勝負がつくのか。
それは――もちろん身長と体重だ。
二人の体格差は、コーダのほうが少々身長が高いくらいでほぼ同じ。
しかし、両者共に身体能力を向上しているため、正確には計れない。
例えばだが、機械化による体重増加があるのかなど、本人もわかっていないのだ。
そして、それから数分間の殴り合い。
その末に立っていたのは――。
「よくやったよ、お前……。だがな、俺に勝つには……鍛え方がちょっと足りなかったみてぇだな」
短い髪を逆立てた帝国将校――コーダ·スペクターだった。
力を使い果たして倒れているディスを見下ろし、コーダは笑って見せる。
その腫れ上がった顔は、ディスとまったく同じものだ。
もし第三者がいて、今のコーダの面だけを見れば、誰も彼を勝者だとは思わないだろう。
コーダはディスを見る。
すでに、全身に浮かび上がっていた電子回路のような光も両目の赤い光も消えている。
スイッチング·ブースト――能力が解けたのだ。
「おら立てよ。起こしてやっから」
コーダは倒れているディスに手を差し出した。
ディスは笑みを返すと、差し出された彼の手を掴んだ。
「やっぱりコーダさん……。あなたは良い人だ」
ディスが立ち上がりながらそう言った瞬間――。
コーダは背中に激痛が走った。
その痛みは全身を巡り、先ほどと逆――コーダが倒れ、ディスが立っている状態となる。
「な、なんだと……?」




