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ディスは閃光と轟音が鳴り響く中を歩いて行く。
街では地球を模した紋章の入った軍服と、深い青色軍服にバイオリンに音符が絡み合う国旗に薔薇が散りばめられている紋章が入った兵隊が戦っていた。
連合国軍とストリング帝国兵の戦闘だ。
その周りには、連合国軍を援護する郵便ポストのような外観をした警備ドローンが蠢いている。
歩を進めながら、ディスは破壊されている建物を見た。
そこには、以前に彼が見た様々なグラフィティ――壁に描かれた海の生物の絵が粉々に砕かれている。
「あの白いコートは……才能の追跡官ッ!? 特殊能力者が現れたぞ! 撃てッ! 撃て撃てッ!」
帝国兵が向かって来るディスに気が付き、ストリング帝国の兵器である電磁波放出装置――インストガンを発射する。
一斉に放たれた閃光にディスは慌てて転がり、近くにいた数体の警備ドローンの陰に隠れた。
「危なッ! もうちょっとでこんがり焼かれるとこだったッ!」
ディスが盾にした警備ドローンらはフィールド展開。
電磁波を防ぎながら、ジリジリと前へ進んでいく。
こいつは助かると、ディスはそのままドローンの後に付いていった。
連合国軍の数は、帝国兵に比べると明らかに少なかったが。
それでも警備ドローンのおかげでなんとか渡り合えているといった状況だ。
「コーダさん、どこにいるんだ……」
ディスは前線まで辿り着いたが、そこにコーダの姿はなかった。
やはり、将校としてこの場にいると思われるコーダ。
後方で全体の指揮を執っているのだろう。
ディスとしては、なんとか前にいる帝国兵たちを抜けていきたいところだ。
「能力を使えばいけそうだけど……」
そう呟きながらディスは迷う。
ここでブレインズの能力――スイッチング·ブーストを使えば、たしかに前線にいる敵を突破することは容易である。
しかし、利き足の踏みつけを合図とし、特殊な電波を脳内に巡らせ、脳髄を歪ませてることで、自身の身体能力を限界まで引き出すこの能力は、かなりの苦痛を伴う。
この街に来てから、それこそ何度も脳を酷使し続けてきたディス。
これ以上の能力の使用は、自我が崩壊しかねない。
「ここはなんとかイケてるプランを考えて、能力なしでいかなきゃ……」
リズムが関わらなければディスは冷静だ。
彼は才能の追跡官になるための試験もギリギリで合格という成績だったが。
リズムの兄であるソウルミュー・ライクブラック仕込みの機転力で、最終試験である実戦形式のテストもクリア。
能力がなければ連合国軍人よりも遥かに劣る彼でも、なんとか認められたのだ。
「考えろ……考えるんだ……。どうすればコーダさんのいる敵陣へといけるかを……」
ディスは警備ドローンの陰に隠れながら思考を巡らせていると、傍に倒れている帝国軍人の死体が目に入った。




