238
用意されていた自動運転車へと乗り込み、ディスはオレンジ·エリアへと出発。
時間はすでに夜に入りかけていた。
元々薄暗かった外がさらに暗くなり、現在いる区域――マーシャル·エリアの街にもネオンサインの煌びやかな光が目立ち始めている。
その輝きと、変わらず無数の配線が張り巡らされた街並みを見ても、ディスには何の感情も湧いてこない。
だが、これから戦う相手――。
ストリング帝国の将校であるコーダ·スペクター大尉には、何か彼なりに思うところがあるようだ。
奇しくもディスとコーダは、互いに素性が知らないときに出会った。
それも今から向かうオレンジ·エリアで、ディスが道に迷っていたときに手を貸してくれたのがコーダだ。
「コーダさんと戦いたくないなぁ……」
自動運転車がマーシャル·エリアからハイウェイへと入るところで、ディスがポツリと呟いた。
窓から外を眺めながら、わかりやすく嫌そうな顔をしている。
コーダと戦うことがリズムに関わる事柄だったら、彼も迷うことはないのだろう。
だが、ただの命令で親しくなった人、仲良くなれた人と戦うのことは、あまり気が進まない。
「なんとかなんないかなぁ……」
ディスは考える。
話し合いで戦わずに済まないか。
それか、いっそのことコーダが望むものを与えてやれないか。
こんなことを考えている時点で、ディスが才能の追跡官に向いていないことがわかるが、それでも彼は志願してこの街へと来た。
今のところディスの目的――リズムは無事だ。
まだ意識は取り戻していないが、彼女なら必ず目を覚ます。
だから、それまでは生きていたい。
リズムが目覚めたときに傍にいてやりたい。
ならばどうすればいいかと、ディスはない知恵を絞っていた。
「う~ん、考えてもわかんないや。とりあえず、コーダさんと会って話してみよう」
結局答えは出ず、ディスを乗せた自動運転車はハイウェイを抜けてオレンジ·エリアへと入った。
ハイウェイ付近では、今のところ戦闘が行われている様子はない。
おそらくコーダら帝国兵たちがいるのは、区域の中心か港付近だろう。
帝国兵がどれくらいの数いるのかわからないが、駐在していた連合国軍や、先に送り込まれた警備ドローン隊がそう簡単にやられるはずもない。
だが、マシーナリーウイルスの力を持つコーダを止められる者はいないと思われる。
それは、ラウドやパロマとシヴィルが向かったハイワット·エリアやヴォックス·エリアも同じことだ。
「そろそろ到着かな……」
ディスの耳に銃撃、電磁波による轟音が聞こえ始めると、自動運転車が停車。
彼は車から降りると、バヨネット·スローターを構えて、目の前の戦場となった街を見つめる。
「さて、まずはコーダさんを探さなくっちゃね」




