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「お前は……どうして笑っていられるんだ?」
「え?」
パロマはわかりやすく態度に出したのに、それでもディスが平然としていることにグッと歯を食いしばる。
こんなときに花を買うなどと言い出す彼に殺意すら覚える。
「どうして笑っていられると訊いたんだ!」
そして、堪らず声を張り上げた。
だが、それでもディスは変わらない。
彼には、何故パロマが怒っているのかがわからないようだ。
「いきなりどうしたんだよ? 俺はただ病室が殺風景だから花の一つでも飾ろうと……」
「みんな死んだんだぞッ!」
言葉を遮ってパロマは言葉を続けた。
ほとんどの仲間が死に、軍警察は壊滅と言っていい状態だ。
さらに裏切ったマローダーは逃亡。
才能の追跡官発足当時からいた中心人物――ブルドラは、敵となって自分たちのことを憎んでいる。
シヴィルは右腕を失う重傷。
リズムは意識が戻らず、マインは精神的に追い込まれて自殺しようとした。
そんなときに、何をのん気に花など買おうとしているのだと、パロマはディスの態度に怒りをぶつけた。
「みんな死んじゃったのは悲しいけど。でも、リズムもシヴィルも生きているし。それに、もうこの街での俺たちの仕事もないじゃないか」
ディスは怒り狂うパロマに言葉を返した。
すでに、この街――アンプリファイア・シティは連合国の管理下に置かれている。
四つの区域――その一つであるマーシャル·エリアは、元々連合国にに街の治安を依頼したボス·エンタープライズCEOコラス·シンセティックが管理する区域。
オレンジ·エリアを仕切っていた橙賊の頭領だったタイニーテラーはすでになく、こないだの戦闘でヴォックス·エリア、ハイワット·エリアをそれぞれ収めていたヴィラージュとリトルリグももういない。
これですべての区域――街全体の治安は安定し、才能の追跡官には連合国軍の本部に戻るように指示が出されていた。
「そうかもしれない……。お前の言う通りかもしれない……。だがッ! お前はこの結果に対して何も思わないのかッ!?」
怒りを見せても変わらないディスに、パロマは声を張り上げ続ける。
「あのときだって……お前が戦えていれば……ムドはッ!」
「俺せいじゃないでしょ?」
「なッ!?」
「あのときにムドの傍にいたのは誰?」
ディスは落ち着いた様子で言葉を返した。
それには、別にパロマに言い返してやろうなどという感情は見られない。
ただ事実のみを伝えている。
そんな言い方だ。
パロマは何も言い返すができない。
「不条理だと思うなら、そいつはそれを覆せなかった力不足ってことさ。恨むなら自分の力の無さを恨みなよ。誰かのせいにして気が晴れるのなら、それでもいいけどね」
「ぐッ……」
ディスはさらに言葉を続け、パロマはもはや表情を強張らせることしかできず、ただその場で俯くだけだった。
彼女の膝の上にいたニコにも何もできず、ただ俯いたパロマを慰めるように鳴いていた。




