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アンプリファイア・シティ――マーシャル·エリアにある才能の追跡官の本部。
その軍警察署内で、一人の男が窓から外を眺めていた。
短いツーブロックに、連合国軍の制服の上からでもわかるほど筋肉の盛り上がった屈強な体をした人物だ。
男の名は、リプリント・イーストウッド。
連合憲兵総局の局長であり、軍では中将の立場にある。
「いつ見ても汚らしい光景だ……」
イーストウッドは、街に張り巡らされたネットワーク配線の束を見て呟いた。
言葉通りに軽蔑するような表情で、吐き捨てるように。
それからイーストウッドは、指に付けたリングタイプの通信機器でどこかへ連絡を始めた。
《は~い。そろそろ来ると思っていたわ》
浮かび上がったホログラムから聞こえる女性の声。
画面に姿は映っていないが、その声から察するに妙齢の女性だということがわかる。
「お前の言った通り。絵に描いたように話が進んだな」
イーストウッドはそう答えると、女性が提案したことが、いかに上手いこと進んだかを話し始めた。
連合国軍が管理する特殊能力者の中から人員を選び、才能の追跡官として軍警察を新設。
それを、電気回路で発達した犯罪都市――アンプリファイア・シティへ派遣。
さらにストリング帝国を名乗る者たちが現れたことで、各国への名目上、武力行使できなかった連合国軍の本隊が街へと介入。
これまで目障りな存在だったヴィラージュ、リトルリグ、タイニーテラー三人の各区域を支配していた者たちを、楽に葬ることができた。
「それもすべてお前のおかげだ」
《あらやだ、褒めても何も出ないわよ。私は私の欲しいものために、与し易いあなたに提案しただけなんだから》
「ふ、言ってくれるな」
からかうように言った女性に、イーストウッドは鼻で笑って返した。
気さくに、まるで友人のように会話してはいるが。
イーストウッドは女性に気を許しているわけではない。
女性が目的があってイーストウッドに話を持ち掛けたように、彼にもまた目的があったのだ。
内心では、せいぜい利用してやるくらいの感情しかない。
「数日後には仕上げを始めようと思うんだが、どうだろう?」
《いいんじゃないかしら》
「そうか、ならば手配するとしよう。何か変更がありそうだったら連絡をくれ」
イーストウッドはそう言うと通信を切った。
そして、局長室の椅子に腰を下ろして背を預ける。
「才能の追跡官もストリング帝国ももう終わるか……。意外とあっけなかったな……。フフフ、フッハハハッ!」
そう独り言を呟くと、イーストウッドは大声で笑った。




